とある事務所の将棋紀行

将棋の好きなアイドルが好き勝手に語るみたいです。

アイドル達の座談会  WCS26ponanzaー技巧 戦

 

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ありす
それでは、これから座談会を行いたいと思います。

美波
よろしくね、ありすちゃん。

 
ありす
……橘です。

 

橘…タチバナ……。つぼみのときに夕美ちゃんから聞いたけれど、クール・タチバナだったかしら?

 
クール・タチバナ
そ、それは…!
……ありすでいいです。

 
菜々
でも、よく事務所に5人も集まりましたねぇ。ナナはコンピューターを勉強するために来てみましたけれど、他の皆さんはどうして来ていたんですか?黄金週間ですよ?

 
美波
私とありすちゃんがイベントライブのお仕事で、楓さんもお仕事ですよね。

まゆちゃんは…

 
まゆ
まゆは、プロデューサーさんがいる所ならどこにでも行きます♪

 
菜々
あ、アハハ……。

ところでありすちゃん、プロデューサーさんと急遽企画されたみたいですけれど、何を話すのですか?

 
ありす
世界コンピューター選手権、ponanza―技巧の対局について、ですね。

 
菜々
いやいやいや!対局終えたばかりなのでまさかとは思いましたけど、あの内容を解説するのは我々には無理ですよ!棋士でさえ首をひねる高難度な対局ですよ!?

 
ありす
……いえ、「解説」というのは語弊がありますね。

ですが菜々さんの言うように内容が高度すぎて、ついていけなかった人が大勢いたと思うんです。

 
ですから、あの対局を具体的に言語化できないか、試してみたいと思ったんです。

 
美波
言葉で表現してみよう、ということかな?

 
ありす
はい。それが正しい見解かは分かりませんけれど、ソフトの手の狙いや方針といったものを少しでも伝えられたら…と思ったんです。

難しいことですけど。

 

…まずは、やってみましょうか。

 
ありす
はい!よろしくお願いします。

 

 

▲5八玉の意味

 

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▲7六歩   △3四歩   ▲5八玉

 

ありす
まず、3手目から考えなければですね。▲5八玉。Ponanza流として有名な手ですけれど、「なぜこれを指すのか」については、説明が難しいところです。どんな意味か説明できないでしょうか。

 
菜々
……ナナにはさっぱりです。昔の将棋だったら破門クラスの手ですよ。

本譜だって▲6二玉で手損していますし、意味があるとは思えません。

しいて言うなら、既存の定跡外しじゃないんですか?

 
まゆ
でも、具体的に咎める方法も難しいですよ。横歩取りや相掛かりなら中住まいでいいですし、居玉を避けているので後手からの急戦を消している意味も出てきますよ。

咎めるなら、振り飛車ですけど…▲6八玉で収めることができるから、そこまで損にはなりませんね。

 
ありす
ponanzaはあまり振り飛車を評価していないので、それは大きいと思います。また、将棋ソフト全体でみても居飛車が多いので、技巧も振って対抗しませんでしたね。

 
まゆ
1手損くらいでは、勝負は決まりませんよね。先手番ですしなおさら。

 
ありす
美波さんは、何か見解はないですか?

 
美波
私?うーん…個人的にはだけど、藤井九段の描く構想と近いと思ったかな。

 
ありす
……どういうことですか?

 
美波
角交換四間飛車藤井システムなんかが顕著なんだけれど、相手の手に応じて攻め筋を組み立てるのね。

相手に形を決めさせて、それを咎めるって感じかな。

「指さなくていい手はできるだけ手を後回しにする」方針で、現代将棋を象徴している…とも言えるかな。

 

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 (▲2五歩なら△2四歩から逆棒銀、▲3六歩なら△4四銀ー△3五歩、待機するなら△4四銀ー△3三桂
 や△3五歩ー△2四歩がある)

 

ありす
この▲5八玉も、そうだというのですか?

 
美波
それに近い、と思うの。

▲5八玉自体は、居玉を避けつつ歩を支えている「プラスの手」なのね。
で、後手は何か指さないといけないからそれに応じて指していく方針だと思う。

元々ponanzaは低く構えて急戦を得意にしているソフトだから、▲5八玉が悪手になることはほぼ無いんじゃないかな。

上手くまとめられないけど…。

 

要するに、「後だしジャンケン」…かしら?

 
美波
そうですね。端的に言えばそうなると思います。

序盤から、気の抜けない展開になりますね。

 
菜々
なるほど、変則的な序盤でいえば佐藤康光九段が有名ですけれど、「一目愚形でも悪くならない」というのは共通してますね。

……将棋は難しいですねぇ。

 

陣形の差

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 △6二銀   ▲4八銀   △5四歩 ▲2六歩   △4四歩   ▲2五歩  

 △3三角   ▲3六歩   △5三銀   ▲3七銀   △3二金   ▲6八玉

 

ありす
この一手だけで延々と議論できそうですけれど、時間もあるので先に進めますね。

後手の技巧は△6二銀と指して、居飛車を明示しつつ手広く待ちました。

その後、ponanzaが飛車先を突き越してから▲6八玉と手を戻すのですけれど、難しいやり取りです。

 
菜々
振り飛車じゃないのに玉を寄りましたよね。これじゃあ、単なる手損じゃないんですか?

 
美波
…いえ、おそらく後手が角道を止めたから寄ったんだと思います。

後手からすぐに動く順がなくなったので、咎めにいく準備…と言えばいいでしょうか。

 
まゆ
先手の手が攻めによく効きつつ玉も安全になっているのに対して、後手は居玉で金銀が追い付いていない印象を受けます。

居角の急戦を先手番で指せるのは大きいですね。

 

これも、▲5八玉の効果…ですか。

 
美波
はい。普通の矢倉系の将棋だと△8四歩が入っているのでここまでキレイな居角急戦は指せませんけれど、本譜は後手の飛車先不突きが裏目に出ている展開ですね。

主導権でいうなら、既にponanzaにあります。

 

居角で後手を威嚇しているのね…ふふっ。

 
美波
……ダジャレはさておき、後手を威嚇どころか、破壊するつもりですね。

 

強気の応酬

 

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 △5二金   ▲2六銀   △4三金右 ▲3五歩   △同 歩   ▲同 銀  

 △3四歩   ▲2四歩   △2二銀 ▲2三歩成 △同 銀   ▲2四歩   △1四銀

 

ありす
この後ponanzaは棒銀から攻めに出て、技巧は金銀で受ける展開ですね。ここ数手は自然というか、必然の応酬が続きます。

 
菜々
ですけど、▲2四歩に△1四銀は強気な手ですねぇ。▲1六歩から、部分的には受けが無い手ですどね。

技巧の手はここまで人間的だなぁなんて思っていましたけれど、これは人には指せないです。

 
ありす
解説で示された展開はこちらですね。

 

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 ▲2四歩以下

△1二銀 ▲2六銀 △2三歩 ▲同歩成 △同銀 ▲2五歩

 
菜々
▲2五歩で銀冠の好形を拒否する形は羽生さんが昔指していますけれど、こちらが自然に見えますね。

 
まゆ
…善悪は難しいですけれど、後手が嫌な形のまま戦うことになりますね。駒の損得もないですし、先手も十分に指せそうです。

 
菜々
なるほど…手得よりも駒の効率なんですか…。時代は変わりますねぇ。

 

斬り合い

 

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▲1六歩   △4五歩 ▲3三角成 △同 桂   ▲7一角   △5二飛  

▲1五歩   △6四角 ▲1四歩   △2八角成 ▲2三歩成

 

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△4二金寄 ▲4四銀打 △5五馬 ▲5三角成

 

ありす
ということで、後手の技巧が△4五歩から斬り合いに持ち込みました。

互いに妥協をしていない応酬ですね。

 
まゆ
先手は、ギリギリの手順で攻めを繋いでいますね。飛車を見捨てて▲2三歩成ですか。

△同金は、本譜の▲4四銀打から攻めが続くということですか。

△4二金にも同様に進めて、△5五馬…また難しい手ですね。

 

働いてない馬を受けに使いつつ、本当の狙いは△2八飛の王手でしょうね。

▲5五同歩△2八飛だと適当な合い駒がないから…。

 
まゆ
だから▲5三角成で銀を補充したんですね。水面下の読みがすごいです…。

 

急転直下

 

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△同金上   ▲5五銀   △2八飛   ▲3八銀   △3五歩 ▲2七歩  

△5五歩   ▲3九金

ありす
そろそろ、問題の局面ですね。後手は狙いの△2八飛を指すのですけれど、▲3八銀と受けて、以下▲2七歩―▲3九金で飛車が死んでしまいました。
そして△2五桂▲2八金。タダで取られてしまったわけです。

……どう解釈すればいいのでしょうか?

 
菜々
よく言われる「水平線効果」じゃないですか?△2八角とかも有名ですし。

 
ありす
読み筋を実際に見ているわけでないので可能性は否定できませんが、△2八飛から5手で飛車が詰んでしまっているので、少し変化としては短いんですね。本当に、これを読めていなかったのか…という疑問があります。

 
まゆ
私たちがみても、難しい局面ですよね。ずっと長考していたい局面です。

 
美波
後手は飛車を取られるまでの間に、先手の銀二枚を取って△2五桂と逃げているから、これが読み筋だった可能性もあるのかな。

読んだ上で、飛車を取らせるより自玉の安全度を上げようとした…ってことなのかな?

 

すこし、後手が終盤の速度を読み間違えてる…と言えばいいのかしら。

 
ありす
もしかしたら、単純に誤判断ということもあり得ますか。

技巧は序盤、中盤、終盤に応じて評価関数を変化させるらしいのですが、激しすぎる進行に追いついていないとなれば、これを説明できるかもしれません。

 
菜々
激しすぎて正着が分からないというのは、豊島―YSS戦を思い出しますねぇ。

でも、後手玉に迫るのでなく▲3八銀―▲2七歩―▲3九金から飛車を詰まして良しという判断は人間的というか…。Ponanzaの強さを示した手順ですね。

 

収束

 

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△2五桂   ▲2八金   △6二玉 ▲3一飛   △5六歩   ▲7一角(図)

 

△7二玉   ▲5三角成 △8六角 ▲同 歩   △5七歩成 ▲7八玉  

△5一歩   ▲5二馬   △6七と   ▲同 玉    △6六銀   ▲同 玉

△6五銀   ▲7七玉   △6六銀   ▲同 玉   △5二歩   ▲6一銀

△6二玉   ▲7二飛   △5三玉   ▲5二飛   △4四玉   ▲5五銀

まで、先手ponanzaの勝ち

 

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ありす
更にここから▲3一飛―▲7一角―▲5三角成で必至が掛かり、勝負が決しました。

以降は王手を続けますけれど、先手は詰みません。

 
菜々
▲7一角を打たせず粘るなら手段はありそうですけどねぇ。8二に効かせつつ△7一銀とか…。でも、玉の安全度が違い過ぎていてどうしようもないですか。

ponanzaの快勝ですねぇ。

 
まゆ
終盤は、ponanzaが読み勝っていたように見えますね。

 
ありす
今回のルールは持ち時間10分に一手10秒加算するフィッシャールールなので、どこに時間を使うか、深く読むかが重要なテーマでした。

本局はというと、

(▲5五銀まで 残り時間▲8分1秒△5分5秒) 単位は秒

△2八飛(28)▲3八銀(17)

△3五歩(23)▲2七歩(17)

△5五歩(15)▲3九金(4) 

△2五桂(36)▲2八金(14)

△6二玉(4) ▲3一飛(16)

△5六歩(8) ▲7一角(18)

 

ponanzaの方がコンスタントに時間を使っているようですね。

 

 

まゆ
飛車を取られてから、技巧の考慮時間が短いような気がしますね。

 
ありす
このルールが採用されたのは今大会が初めてなので、これに対応した設定を調整するのは大変なことだったと思います。

どの局面で深く読むかということは非常に重要ですけれど、明快な答えが出せない問題でもありますね。

 

機械には、時間を使う実感ってあるのかしら…ふふっ。

 

一同
………………。

 

 座談会終了

 

ありす
ここまで、ソフトの対局を言葉にできないかと試してみましたけれど、どうだったでしょうか。

 
まゆ
ソフトの特徴がよく表れた対局だったと思います。良くも悪くも。

 
菜々
ponanazaの、玉の安全度に差をつける方法がすごいですねぇ。

勝ちパターンとして「固い・攻めてる・切れない」と言われますけれど、固くはないですが相手玉より安全な局面を常に維持していました。

人間なら、穴熊に組んでこういうパターンに持ち込むのですけれど…。

 
美波
他の対局を観ていても、自玉が安全な状態で攻める技術の高さに驚いたかな。

穴熊じゃなくてもゼット(絶対詰まない形)は存在するから、そういう局面から早く動く感覚は新鮮だね。

定跡でいうなら「矢倉91手組」や「富岡流」、「新山崎流」みたいな怖さがあるかな。

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みんなのように上手くコメントできないけれど、何か違うものを見ている気がしたわね。

でも同じ将棋なのだから、将棋はそれだけ難しくて底が見えないものだ…と言ったら変かしら。

 
まゆ
いえ、それでいいと思います。分からないから、みんなが惹かれるんですよ。棋士も、開発者も。

 
ありす
今回は突然のお願いに応じて頂いて、ありがとうございました。

それでは、これで終わりといたします。

お疲れさまでした。

 

一同
お疲れ様でした!

 


うーん!お仕事も終わりましたし、みんなで飲みに行きません?

 

美波
楓さん!まだ全員未成年で…………。

 

菜々
な、ナナを見るのには何か意味が…?

 

 

 

 (了)

 

みなさん、3日間お疲れ様でした。(ありす)

 

 

 

佐久間まゆの名局振り返り  名局賞だけじゃないんです

 

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 みなさん、お久しぶりです。今回も私、佐久間まゆがお送りしますね、うふっ♪

 最近、名人戦をはじめ熱戦が多い…と感じます。

 対局の内容については楓さんや、他の事務所ですけれど幸子ちゃんや文香ちゃんが観戦記を書いているので、興味があったら見てくださいね。

 

鷺沢文香『荒れ野に咲く花は』(第74期名人戦七番勝負第2局 佐藤天八段-羽生名人 一日目) - 神崎蘭子さんの将棋グリモワール

 

 名局賞というのは、1年で1番の名局に贈られる賞のことです。昨年度は、棋王戦第5局が受賞しました。▲7七桂の将棋ですね。

 ……でも、何が「名局」かは人によって評価が分かれるところですし、熱戦は1年に1局だけではありません。

 特に4月のような年度初期の対局は印象が薄れやすく、「受賞には不利ではないか」とも言われていますね。
 現に歴代の受賞局は王座戦以降がほとんどで、一番早くて王位戦の9月です。
 もちろん、受賞に値する内容なんですけれど。

 でも、名局賞を受賞しなかった対局にも素晴らしい内容の棋譜はたくさんあります。  ずっと覚えていられればいいのですけど、「過去の対局」として埋もれていってしまうんです。

 

 ということで、今回は過去の熱戦を振り返ってみたいと思います。よろしくお願いします♪

 

2012年9月5日 第60期王座戦 第2局 

渡辺明王座 対 羽生善治棋聖、王位

持ち時間各5時間

 

 もう、3年以上前のことになるんですね。
 少し、当時の背景をおさらいしてみようと思います。

 

 羽生王座が『無敵王座』として君臨し続けたことはあまりに有名ですね。

 その期間はなんと19期。

 まゆが生まれる前から王座だったわけですから、その長さを具体的に想像することは無理ですね。 王座を奪取したときの相手が福崎文吾九段…と言っても、ピンとくる方は少ないのではないでしょうか。それくらい昔の話から、王座の地位に就いていたわけです。

 とにかく、王座を19期、ストレート勝ちを6期連続で19連勝という、誰も辿りつけないであろう記録を打ち立てました。

 

 でも、数字はいつか止まるものです。第59期王座戦では渡辺竜王を相手に3連敗。連勝記録どころか、連覇まで止まってしまいました。
 ……普通は、ここで一区切りなんですけれどね。羽生さんの場合、「普通」は通用しません。

 王座陥落の後、第60期の挑戦者決定トーナメントを駆け上がり、挑戦を決めるんです。 (トップ棋士相手に4連勝が必要です) まるで当然のように、王座戦の舞台に戻ってきたわけです。
「事実は小説より奇なり」…とはよく言いますし、恋愛小説はよく読みますけれど、創作なら「予定調和」と言われてしまいますね。
 ……でも、それが当然のように思えるところが羽生さんの羽生さんたる所かもしれません…ふふっ♪

 

 一つの対局にも、こんな背景があるんです。人間の勝負ですから、このあたりも面白いところだと思います。

 前置きはここまでにして、対局を観てみましょうか。

 

(初手から)
▲7六歩   △3四歩   ▲2六歩

 王座戦は、第1局は渡辺王座の勝利。序中盤は羽生二冠の優勢でしたが、僅かなミスから逆転しています。 本局を落とすとカド番になってしまう上、主導権を握りにくい後手番…。 「また3連敗もあり得るのでは」という空気だったのを覚えています。

 

 でも、そんな空気は4手目に吹き飛んでしまいました。

 

 

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△4二飛

 

 羽生二冠は飛車を持ち、4筋に動かしました。角交換四間飛車です。
 この一手に控室も、観戦していたファンもみんながどよめきました。

 オールラウンダーとはいえ振り飛車は少なめの羽生さんですが、角交換四間飛車は過去に1局だけです(2011年の棋聖戦第2局、これも熱戦です)。 渡辺さんが事前に予想していないのは明らかです。その駆け引きが一つの理由ですね。

 そして、理由がもう一つ。これは、もう一人の棋士について語らないといけません。

 藤井猛九段です。

 角交換四間飛車そのものは戦法としてありましたけど、当初は攻め筋に乏しくマイナーでした。 そこに光を当てたのが藤井九段なんです。
 逆棒銀や3筋攻め、筋違い角といった新手を次々に披露したんですね。そのほとんどを、藤井システム同様一人で開発したんです。
 藤井九段はこの角交換四間を原動力として王位戦を勝ち上がり、羽生王位に挑戦します。それが、この年の7~8月ですね。そして、この対局は9月です。

 ……つまり羽生さんは、1ヶ月前のタイトル戦の相手の得意戦法を採用しました。 普通はありえないことです。 だからこそ、この4手目で非常に盛り上がったわけなんですね。

 

 ただ、これだけで勝てるわけじゃないので、羽生二冠も相当の準備をしてきたことがうかがえます。

 

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▲6八玉   △8八角成 ▲同 銀   △6二玉   ▲7八玉   △2二銀  

▲4八銀   △7二玉 ▲5八金右 △3三銀   ▲7七銀   △4四歩 

 

 王位戦は羽生二冠の4勝1敗で防衛となりましたけど、対角交換四間だけをみるとほぼ全て作戦的に失敗しているんですね。
 全く攻めができずに負けた第2局や、完敗1歩手前まで追い込まれた第4局は藤井九段の序盤術が遺憾なく発揮されました。

 そのあたりから、優秀な作戦だと思って採用したのでしょう。

 

 △4四歩が羽生二冠が用意してきた作戦で、普通は△2二飛と回るために突かない歩です。 (▲4三角と打たれるキズができます) 飛車を転回せず、4筋で戦うのが工夫でした。前例は既にありません。

 先手は▲5七銀と備え、後手は△7四歩で玉頭位取りを拒否。互いに、動きにくい局面になりました。 千日手は、後手の望むところです。このあたりも、角交換四間飛車の狙いの一つですね。

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▲5六歩   △8二玉 ▲5七銀   △7二銀   ▲8八玉   △7二銀  

▲7八金   △5二金左 ▲5七銀   △7四歩   ▲6六歩   △6四歩   ▲5五歩

 

 ▲5五歩が、渡辺王座の力量をみせた一手です。これで、千日手の心配がなくなりました。

 ……難しい話ですけれど、将来▲5六銀のように駒を進展させていく手があるので、先手から打開する手段に困りません。手が進むにつれて、この一手が後手の負担になっていきます。

 

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△6三金   ▲6七金右 △9四歩   ▲9六歩   △7三桂   ▲2五歩  

△8四歩   ▲3六歩   △1四歩   ▲1六歩   △8三銀   ▲9八香  

△7二金   ▲9九玉

 

 ▲9八香で、先手は穴熊の姿勢をみせます。でも、後手には動く手段がありません。

 飛車を横に動かすと▲4三角と打たれますし、3三の銀は釘づけです。
 指す手がないんですね。 無理に動けば、渡辺王座に咎められるのは目に見えています。


 はっきり言えば、大作戦負けです。
 藤井九段のようにはいきませんでした。やはり、羽生さんは羽生さんですね。

 困った後手ですけど、ここからが羽生さんの勝負術です。

 

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△9二玉   ▲8八銀   △8二玉   ▲7九金   △9二玉   ▲6八銀

△8二玉   ▲3七桂   △9二玉   ▲4六歩   △8二玉   ▲4八飛

△1二香   ▲2八飛   △9二玉   ▲2四歩

 △9二玉▲8八銀△8二玉。玉を寄って、戻しました。一人千日手です。
 指す手がないにしても、このような手は初めて見ましたね。
 ひと昔前の将棋ソフトなら、指しているのを見たことがありますけど…。

 手詰まり模様の手渡しなら分かりますが、先手は指したい手がたくさんあります。実際、穴熊の連結を良くして桂馬も跳ね、やりたい放題です。
 やりたい放題……。このぐらい、プロデューサーさんにも色々したいですね……
 あ、ひとり言です♪

 最終的に△8二玉と戻すので、4往復、8手損してしまいます。

『玉の早逃げ八手の得』という格言はありますけれど、真逆ですね。普通はありえない手です。

 

 先手は、万全の体制を築いてから▲2四歩と開戦しました。ここから、戦いが始まります。 ……既に、形勢は先手良しです。

 

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△同 歩   ▲1五歩 △同 歩   ▲3五歩   △5二角   ▲3四歩  

△同 角   ▲2六飛 △8二玉   ▲4五歩

 

 穴熊という戦型は、「攻めが続く形」になったら勝負は終わってしまいます。 攻め合いでは、穴熊に勝てません。詰む詰まないがはっきりしていて手数計算がしやすく、先に寄せられてしまうから、ですね。『穴熊の暴力』です。

 

 1筋も突き捨て、▲3五歩。これを△同歩と取ると、▲1五香△同香▲2四飛で攻めが続いてしまいます。

(参考図です♪)

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(先手の飛車成りが約束されているので、穴熊が良い展開です)

 

 ということで△5二角と打ったんですね。持ち角を手放す損は大きいですけど、これ以外に手がありません。 とにかく、先手の攻め筋を潰していくしかないんです。

 そして、先手も良いながら破る手段が難しいんですね。8手得をしているのに、明快な順が無い…将棋は難しいですね。

 

 更に勝負術が繰り出されます。

 

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△9五歩   ▲同 歩   △9七歩   ▲同 銀 △4五歩   ▲4三歩  

△同 角   ▲8八金   △8五桂   ▲8六銀 △9七歩   ▲同 桂  

△9六歩   ▲8五桂   △同 歩   ▲同 銀 △9五香

 

 穴熊は、「王手の掛からない形」というのが一番の長所です。対穴熊戦では、それを崩しにいく必要があるんですね。

 △9五歩と端攻めをして、△4五歩と手を戻す。端だけで先手玉を攻略できない故ですけれど、独特な駆け引きです。 対して▲8八金も渡辺王座らしい手で、「王手の掛からない形」を目指します。

 

 執拗に端に絡んで、先手の穴熊も嫌な形になってきました。 まだ先手が良いですし手が広いのですけど、攻めると反動がありますから判断が難しい局面です。

 

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▲9六香   △同 香   ▲同 銀   △9五歩   ▲同 銀 △9一香

 

 ここでは、▲5一角が正着だったようです。
 以下、△9七歩成と金を作らせても▲9五角成から香車を取り切ってしまうのが手厚い…とのことですね。△8八とは▲同玉で危険地帯から脱出できます。 駒損するので難しいところですけれど、穴熊が崩壊しているので玉は広い方がいいとも言えます。
…でも、渡辺さんの棋風ではなかった、という感じもしますね。

 

▲9六香で端を緩和しにいきましたが、これが疑問手でした。 ただ対局中は控室でも分かっていませんでしたし、やはり「結果的に疑問手」という感じですね。ここからの手順も難解です。

 

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▲9六歩   △9五香   ▲同 歩   △8四桂   ▲7九香

 

 △同香▲同銀△9五歩から迫りますが、このときに後手の△4三角が働いてくるんです!

 本譜△8四桂も角を活かした攻め筋ですけれど、水面下では△8六歩や△7五桂のような手もみています。 仕方なく手放したはずの自陣角が、攻めに強力に効いてくる…、 そう組み立てた羽生さんの力量もありますけれど、将棋は不思議ですね。

 この局面では、後手の方が良くなっている……みたいです。 先手は、必死に手を作りにいきます。

 

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△2五歩   ▲2九飛   △4四銀   ▲9四歩   △3二飛   ▲3三歩    

△同 飛   ▲3八歩   △9四銀   ▲5一角 △6二金引 ▲8九玉  

△3二飛   ▲5四歩   △9六桂

 

 細い攻めを繋げるのが上手い渡辺王座ですけれど、本局は羽生二冠の指し回しが勝りました。
 △2五歩で先手の飛車を遊ばせて、端の嫌味を消す。特に△9六桂のタイミングが絶妙です。 △6二金引―△3二飛と2手溜めてから跳ねる。これで、先手の攻めを遅らせているんですね。(すぐに跳ねると、▲9八香の反撃が厳しいです)

 「羽生マジック」と呼ばれる常識外の一手が印象に残りがちですけど、こういった「正しい手の組み合わせで、自然と良くしていく」方が羽生さんの本質だと思います。

 先手の穴熊は崩壊し、終盤戦、寄せ合いです。

 

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▲7七銀 △8八桂成 ▲同 玉   △5四角  ▲9三歩   △3六歩  

▲2五飛 △3七歩成 ▲9二歩成 △7三玉   ▲9三と   △9五銀 

▲8五桂 △6三玉   ▲7三香   △6一金   ▲7二香成 △5一金  

▲7三桂成△5二玉   ▲4六桂 △8六歩

 

 渡辺さんも勝負勝負と迫っていきます。互いに危険な玉形ですね。
 先手は受けても速度が変わらないので、後手を先に寄せるしかありません。

 ▲4六桂は鬼手で、△同歩は▲9五飛で先手玉が安全になります。 なので△8六歩、これが詰めろなんですね。
 受けはほぼないので、最後は後手玉が詰むかどうかの勝負です。

 危ない筋が、たくさんあります。

 

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△8六歩   ▲6二成香 △同 金   ▲同成桂 △同 玉   ▲5四桂  

△同 歩   ▲7一角   △同 玉   ▲2一飛成△3一金

ただ、本局の羽生二冠はひたすら正確でした。精算していかにも寄りそうなごてぎょくですが、▲2一飛成に△3一金が決め手です。

これを△3一歩で安く合駒をすると、頓死してしまいます。金合い限定……NHK杯決勝を思い出しますね。

(参考図です…)

 

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(△3一歩以下、▲6三桂△6二玉▲3二竜△同歩▲4二飛△5二金▲7二金▲5三玉▲4三金△同金▲6二飛成まで。 金合いなら、▲4二飛と打てません)

 

 f:id:kaedep:20160505033529g:plain

▲3二龍   △8七歩成

まで、144手で後手の勝ち

 

 △8七歩成で渡辺王座の投了となりました。以下は詰みですね。

 

 

 本局は、互いの勝負術の特徴がよく出た一戦でした。

 

 序盤はオールラウンドな戦型選択の羽生二冠に対して渡辺王座が堅実な手で仕掛けを封じ、作戦勝ちに。

 羽生二冠はそこから、「仕方ない」と一人千日手を敢行します。八手損を仕方ないと割り切るのは、いかにも羽生さんですね。

 穴熊に組み換えて細い攻めを繋げにきたのも、渡辺さんの真骨頂です。

 序盤から終盤に至るまで、両対局者の棋風が非常によく表れた、好局でした。

 まゆがこの対局を推した一番の理由は、圧倒的な「疑問手の少なさ」です。

 

 

 穴熊という戦型は、「勝ちやすい」事が長所なんです。
 相手が一手でも受け間違えれば、一気に勝ちになる…そんな恐ろしさを秘めています。
 渡辺さんは観戦記で、「振り飛車は有利にしやすいけれど、固さで逆転できる」という内容を語られています。

 ですけど、本局では羽生さんが間違えませんでした。

 渡辺さんも自然に見える▲9六香が疑問だったのみで、その後も嫌味を突いた攻めを繰り出しています。…正確に受け止めた羽生さんが強かった、としか言いようがないですね。

 その後、3勝1敗1千日手で羽生二冠は王座を奪取。今も防衛を続けていて、若手の挑戦を阻みつつ4連覇しています。 ここ数年の王座戦は名局揃いですから、見てみると面白いと思いますよ♪

 

 

 この年の名局賞はこの王座戦の第4局(△6六銀の捨て駒が有名です)なんですけれど、勝負の内容において、第2局は遜色ないものです。

 ですけれど、受賞しなかった対局は埋もれてしまうんですね。
 定跡がいくら進歩しても、評価値がいくら正確になっても、そのときの『勝負の魅力』は色褪せません。棋譜は、ずっと残ります。

 人間は感情の生き物ですから、勝負に感動したり、妙手を「美しい」と感じたりできるんです。

 周りの環境が変化しても、それは変わりません。

 

 また、こうやって名局を紹介できたらいいな…と思います。

 それでは、また機会があればお会いしましょう。お付き合い、ありがとうございました♪

 

 

 ……そういえば、変わらない感情というと恋愛もですね…ふふっ。

 

 

(了)

高垣楓の徒然観戦  すべてはその一勝のために

 

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みなさん、こんにちは。高垣楓です。初めて、私が担当させて頂きます。

私は…口下手な人間です。
ダジャレは言えても、自分の考えや感覚を伝えることが難しいと思っていました。 ですから、美波ちゃんの定跡解説をはじめ、事務所の他の子が記事を担当することになっていました。

…ですけど、次第に「これでいいのか?」という思いが募ってきました。
自分に囚われたままでいいのか…と。

そして今回、プロデューサーさんと検討して、私が担当することになりました。

不得手ですけれど、よろしくお願いします。

 

 

第29期竜王戦1組5位決定トーナメント 

阿久津―羽生戦

4月14日 持ち時間 各5時間

 

今回取り上げる対局は、こちらです。観ていた方も多いでしょう。

私の観戦記…というよりは、事務所の記録に近いかもしれません。

 

朝・対局前(9時頃)

 

事務所の一室に入ると、いつものようにみんなが集まって談笑していました。

 

菜々
楓さん、おはようございます。今日の中継は、目が離せないですねぇ。


おはようございます。井山さんの七冠がかかった一局ですか?

菜々
それも大切ですけど、囲碁の方ですから…。今日は竜王戦に羽生名人が出るんですよ。


あ…そうでしたね

菜々
3連勝4連敗の名シリーズから8年も経とうとしているんですよ!毎年、この時期は気が気じゃないです…。


トーナメントですから、なかなか挑戦できないのは仕方ないですよ。

菜々
今期も、既に1敗してますからねぇ…。2組降級の危機は脱しましたけれど、先行きは不安ですね。

まゆ
……でも、羽生さん本人はそこまで気にしてないみたいですよ。

 

プロデューサーさんの机の下からまゆちゃんが出てきました。

 

菜々
ま、まゆさん!?いつからそこにいたのですか?

まゆ
朝早くからずっと、待ってました…。それと盗ちょ…なんでもありません。

菜々
そ、そうなんですね…。アハハ…。

まゆ
それで羽生さんのことですけど、「永世七冠」に固執している様子は昔からないですね。タイトルの数とか記録よりも、目の前の勝負を、局面を追い求めているように思います。
意気込んで取れるものでもないですし、周りの方が気にし過ぎなのかもしれませんね。


そういえばまゆちゃん、羽生名人のファンだったわね。

まゆ

はい。あの、勝利への執念が大好きなんです。うふふ♪
でも、まゆも今日の勝敗は気になりますし、楽しみでもありますよ。

 

そう言ってまゆちゃんはプロデューサーさんを探しに部屋を出ていきました。
……さて、どうなるでしょうか。

 

 

先手の作戦(12時頃)

 

『…………』

 

レッスンを終えて部屋に戻ると、美波ちゃんとアーニャちゃん、ありすちゃんが盤に駒を並べて検討していました。

 

美波
あ、楓さん。お疲れ様です。


美波ちゃんも、検討お疲れさま。…盤面は羽生名人の?

美波
そうですね、この局面で昼休に入りました。戦型は角換わりなんですけど……。

 

 

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▲7六歩   △8四歩   ▲2六歩   △3二金   ▲7八金   △8五歩 ▲7七角   △3四歩  
▲8八銀   △7七角成 ▲同 銀   △4二銀 ▲3八銀   △7二銀   ▲4六歩   △6四歩 
▲4七銀   △6三銀 ▲6八玉   △4一玉   ▲3六歩   △3一玉   ▲5六銀   △5四銀
▲3七桂   △4四歩   ▲7九玉   △5二金   ▲1六歩   △1四歩 ▲4八金


ありす
先手の阿久津八段が▲4八金と上がりました。ポナンザ流ですね。


ポナンザって、ソフトの?

ありす
はい。ポナンザが多用したのでこの名称になっています。自陣の隙のなさを重視している構えです。

アナスタシア
シト?アリス、このままだと△3九銀のようなスキがありますね。

ありす
いえ、すぐに銀交換にはならないので、▲2九飛と引きます。これが好形で、桂馬を跳ねても△3七角のような反撃がありません。

美波
今では、西尾六段や他の棋士も採用している形だね。

アナスタシア
パニャートナ、勉強になりますね。


つまり、阿久津さんが用意の作戦をぶつけたのね?

ありす
はい。まだ序盤なので形勢はさておき、羽生名人がどのような対策をするのか興味深いです。
今後は激しい攻め合いが予想されますから、中盤は時間をかけて読むと思います。

 

 

 ありすちゃんがそう締めて、いったん昼食のために解散しました。
ソフトの新作戦が有力になるなんて、少し前なら想像もできなかったことです。
時代の移り変わりを感じます。

 

 

夕方・美波ちゃんの解説(18時すぎ)

 


3時のおやつに、かな子ちゃんが差し入れてくれたチョコをちょこっとずつ食べて、糖分を補給しました…ふふっ。
夕食休憩に入りましたが、局面は中盤の難所です。検討に熱が入ります。

 

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△7四歩   ▲2五歩   △3三銀   ▲4五歩   △同 歩 ▲同 桂   △4四銀   ▲4六歩  

△4二金右 ▲2四歩   △同 歩 ▲同 飛   △2三歩   ▲2九飛   △7三桂   ▲9六歩  

△9四歩 ▲1五歩   △同 歩   ▲1四歩   △6五銀   ▲5一角   △7二飛 ▲1五香   △1二歩

 

菜々
いやー、端を詰めた得は大きいですよ。寄せで、金銀2枚分くらい得する変化もあります。
ゆっくりした攻めでも、繋がると後手はつらいですねぇ。

ありす
ですが、後手が受けきる将棋ではないですね。

アナスタシア
なら、攻め合い…ですか?

美波
そうなんだけど…手段が難しいかな。駒を渡すと、反撃が余計に厳しくなるし。

アナスタシア
ミナミは攻めが上手いですから、きっといい手を見つけられますね。
いつも、いろんな手段でアーニャをメチャクチャにしています。

美波
将棋の話だからね!?

ありす
…………?将棋以外の話、していましたか?

美波
そ、それで合ってるよ、ありすちゃん…。

ありす
……橘です。

 

話を聞いている分には面白いけれど、検討に具体的な手が出てきません。
上級者になると「なんとなく」で話が進んでしますことはままありますが、これでは解説が難しいですね。
…少し、聞いてみましょう。

 


美波ちゃん、ちょっといい?この局面について解説をお願いしたいのだけど…。

美波
いいですよ。普段通りの解説でいいですか?


いえ、今日は少し趣向を変えてみたくて。
局面って棋力によっても見えかたや理解って違うじゃない?
だから、「初級者向け」「中級者向け」「有段者向け」の3通りで解説してみて欲しいの。

美波
えぇ!?それは初めてのことですね…。

アナスタシア
面白そうですね。ミナミ、ダヴァーイ、ダヴァーイ♪

美波
……5分、時間をください。

(5分後)

美波
えーと…では、解説してみたいと思います。

(初級者向け)
先手が金を左右に配置して、バランスよく構えながら攻めています。
角と桂馬が攻めに働いているので、駒を増やしながら確実に、後手陣を攻略していこう…という方針です。
後手は受けきれないので、反撃することになると思います。


(中級者向け)
先手は▲3五歩といった明快な攻め筋があるのですが、(取れば▲2四歩△同歩▲同飛が銀取り)
ポナンザ流▲4八金・▲2九飛が隙のない形なので、後手の攻め手が難しいです。
▲5一角が取られそうに見えますけど、△4一金としても▲2四歩△同歩▲同角成で生還されます。
先手十分に見えますね。


(有段者向け)
羽生さんの△4二金が新趣向で守りを固めた手なんですけど、▲5一角を含め先手が上手く立ち回っているように見えます。
後手は何とかして反撃したいですが、右辺は難しいです。
△5六銀~△4七歩の筋はありますが、▲5八金で効果が薄い上に先手玉は安泰です。 ということで、7筋~9筋の玉頭方面で戦うことになると思います。金銀二枚の囲いなので、その方がいいでしょう。
手としては△7五歩や△8六歩ですね。△5六銀は、リスクが大きいと思います。

…ただ、戦力不足かつ5一の角が牽制しているので、苦心しそうです。

形勢としては先手良しで勝ちやすい局面に見えます。

 

……こんな感じでいいでしょうか?

 


ええ。美波ちゃん、ありがとう。

アナスタシア
ハラショー!すごく勉強になりましたね。ミナミ、説明上手ですね。

美波
でも、面白い解説とかは全然できないから…。

菜々
木村八段の解説とか、話術がすごいですよね。あと、升田先生もすごかったです!


……ダジャレなら教えましょうか?

美波
ダジャレは結構ですっ!楓さんの対応するこちら側はいつも大変なんですから…。

 

ここでいったん、検討も休憩になりました。少し食べて、夜の検討に備えようということです。

……お酒、飲みたいですけれど酔っては文章が書けませんね。
よって、このままシラフで頑張ります…ふふっ。

 

 

菜々さんの呟き(19時頃)

 

夕食休憩も終わり夜戦が始まる時間帯ですけど、まだみんなが集まっていません。

することもないので菜々さんとソファーでテレビを眺めていたのですが、
囲碁のニュースが流れてきました。 『第3局 井山名人の奪取ならず』と。

 

 

菜々

あと一勝…。

 

はい?

 

隣りに座っていた菜々さんを見ますが、彼女はこちらを向かずに続けます。

 

菜々
『あと一勝』『タイトル奪取に王手』とよく言いますけれど、
その『一勝』はとてつもなく重くて、苦しいものなんです。

 

井山さんのことですか?

 

菜々

いいえ、井山さんだけじゃないです。

羽生さんは1995年に、『あと一勝』を逃して七冠は先送りになりました。 竜王戦だって、永世七冠まで『あと一勝』を逃してはや8年です。

初めて名人を奪取した対局も、重圧に押し潰されそうでまともに食事ができなかったそうです。

羽生さんだけでなく、王座戦でいうなら中村六段が、豊島七段が、佐藤八段が、『あと一勝』を得られずに涙をのみました。

棋士だけでなく、三段リーグやアマチュアの大会だって星一つの差に沢山の人が泣いてきました。

 

…それくらい、『一勝』って重いんですよ。

そうね……。

 

『あと一勝』『七冠達成は持ちこし』

そんな文字が躍る画面から視線をそらさず絞りだされた呟きに、ただ同意するしかできませんでした。 そして将棋でも、一勝をかけた対局が山場を迎えます。

 

 

夜戦 (20時~)

 

夜も深くなってきたので、ありすちゃんは先に家に帰ることになりました。
本人は残りたがっていましたが、仕方ないですね。

検討はまゆちゃんも加わって5人で進めていますけど、後手苦戦の雰囲気です。

 

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▲3五歩   △7五歩   ▲3四歩   △7六歩 ▲6八銀

 

菜々
う~ん、後手つらいですねぇ。

美波
やはり7筋を詰めましたけれど、攻めの手段に乏しいですね。

菜々
羽生マジックとか、出ないですかねぇ…。

まゆ
それは、難しいと思います。
羽生さんの逆転術というのは、敵陣に駒が入り乱れていたり、複雑な局面に存在する「常識外の一手、手順」ですから。
この局面は、すっきりしすぎています。

菜々
そうですか…。 あ、指しましたか?△8八歩▲同玉。 ……手が見えませんねぇ。
△5六銀▲同歩△6五桂は、▲7三銀くらいでどうにも。

美波
普通は、先手が攻め勝つ局面ですね。


『………………』


検討の空気が重くなります。全員がまゆちゃんほどの羽生ファンではありませんけれど、本命の棋士が早々に姿を消すのはやはり味気なく感じてしまいます。 沈黙を破ったのは、中継の更新でした。

 

美波
△4五銀……桂馬取ったんですか!?非常手段に見えますね…。

アナスタシア
でも、続きがありますね。▲同歩に、△8七歩です。イヤミ…ですか?

 

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△8六歩   ▲同 歩   △8八歩   ▲同 玉   △4五銀 ▲同 歩   △8七歩


 菜々
取ると△7五桂ですけど、歩切れですからねぇ。それで良いかどうか…。
▲同金△7五桂▲2二歩△同玉▲8三銀とかでいじめる感じですか。

でも△8七桂成▲同玉の局面は先手も怖いですね。

 (菜々さん指摘の変化)

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先手が良いとは思いますけれど、できるだけ難しくする羽生さんらしい手順ですか。 あ、また更新…。互いに指し手が早いですねぇ。

▲9八玉とかわしましたか。相手にしない方がいい…ということでしょうね。

 f:id:kaedep:20160424203950g:plain

▲9八玉


まゆ
……でもこれ、何かありそうですよ。

 

盤を凝視するまゆちゃんの目の色が、少し変わった気がしました。

 


まゆちゃん、何かいい手があるの?

まゆ
正確な手順は分からないですけど…勘です。

先ほどの局面に比べて、かなり先手玉が危険になっています。手が作れそう…な気がするんです。
△9五歩から、後手も反撃ができる形だと思います。

 菜々
いやぁ…でも、阿久津さんも△9五歩以降は読んでいるでしょうからねぇ。

 

意見が交錯する中、局面はクライマックスを迎えようとしています。

 

 

 ~終局(~22時)

 

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△9五歩   ▲8三銀   △7一飛 ▲6二角成 △9六歩   ▲9二歩   △7五桂

 

菜々

▲8三銀は羽生ゾーンと呼ばれていますけど、羽生名人が打たれた側ですね。
9筋にも効かせた好手に見えます。

まゆ
ですけど、△7一飛は細かな手順です。馬で取らせることによって、働きを悪くできます。 …こういった手順の積み重ねが大事なんですね。ふふっ♪

美波
▲9二歩は、飛車をすぐに取ると危険…ということでしょうか。
ただ、△7五桂で先手玉が相当危ないですか?
▲8七玉とかで歩を払われると寄らないから、という意味でしょうか。

アナスタシア
ンー、難しすぎてよく分からないです。


……少し、整理してみましょうか。

この局面で▲7一馬と取ると…△5六銀、取ると△8八角で、取ると先手詰み。後手は△4一歩で耐えられるから速度差で後手勝ち。

 (変化1)

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だから△5六銀に▲9七馬と受けに効かせて、△6七銀成に▲同銀、△7七歩成に▲同金しかなくて、△8八角。 ……7五桂がめいっぱい働いているわね。

 (変化2)

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菜々
それって…飛車取れないって事じゃないですか! 後手が良いってことですか?


まだ何かありそうだけれど、先手が明快に勝てる将棋ではなさそうな気がしますね。

まゆ
中継、更新されました。▲2二歩…飛車を取りませんでした。

美波
本当に取らなかった…。楓さん、そんなに正確に解説できたんですか?


序盤の定跡や中盤の感覚はうまく言葉にできないけれど、終盤はある程度はっきりした結論が出るから…。

でも、▲2二歩は相当な勝負術ね。△同玉と取るのが普通だけど、▲9七馬からの手順のときに▲6六馬が王手で攻防に効くから。

 

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(△3一玉に▲7七馬でと金を外して受けきれます)

 

アナスタシア
ニチェボー、では、どうするのですか?


△同金で耐えていれば、もしかしたら…。でも、危ない形だから。

『………………』

 

再び沈黙に包まれます。
ですが重苦しさはなく、難解な局面を前にした熱気のようなものが存在していました。

 

まゆ
あ…更新、きました。…………え?

美波
まゆちゃん、何かあったの?

まゆ
56、△5六銀です…。

菜々
えぇぇー!!!?▲2一歩成から迫れますよ!?

すぐさま、盤に手順が並べられます。

 

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▲2二歩   △5六銀 ▲2一歩成 △同 玉   ▲3三桂

 

菜々
△2二玉は今度こそ▲7一馬でダメですね。詰めろですから。
となると、△同金右、▲同歩成、△同金…ですか? いやぁ、大丈夫なんですか?これ。飛車取ると…?


……△9五桂。

菜々
え?……あぁ、それが詰めろですか!取った桂馬で!ひえー…。恐ろしいですねぇ。

では、飛車を取らずに詰めろを掛けないとですか。▲3四歩ですかねぇ。

 

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△同金右   ▲同歩成   △同 金 ▲3四歩

 


それは…この手があります。

 

盤で示すと、菜々さんがため息をつきました。 それくらい美しく、絶妙な手順です。

 

菜々
将棋って、助からないと思っても助かっているんですねぇ…。

 


ほどなくして、本譜も同様に進み、阿久津八段が投了。終局になりました。

 

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△5五角 まで、86手で後手の勝ち

 

アナスタシア
これで、後手勝ちなのですか?ヴァチモァ…どうしてですか?

美波
うーん、後手玉は▲2二歩から▲3三歩成の筋で詰めろだったんだけど、△5五角でそれを受けているのね。 で、先手玉は△8八歩成▲同金△同角成からの詰めろになっているの。 つまり、「詰めろ逃れの詰めろ」だね。

アナスタシア
ニチェヴォー シビエ!すごいですね。
……阿久津さんは、何が悪かったのでしょう?

美波
うーん、分からないかな。飛車を取れる変化がなかったのは誤算だと思うけれど、▲8三銀以降、代案は見つかってないし…。

菜々
羽生名人の真骨頂、という感じですねぇ。
どこで悪くなったのか分からない、そんな将棋でした。「羽生マジック」みたいな1手で逆転…ではないですけど。

まゆ
でも、それが羽生さんの本質だと思います。 △8七歩も、△7五桂も、△2二歩に対する手抜きも、「部分的には」ある手です。
ですけど、本局の手順は誰にも思い浮かびませんでした。 予想外の手順で、なおかつ難しく、最善なことすらある…。
「作ったような一手」だけで勝てるほど、将棋は甘くないですから。

菜々
特に、△8七歩からの手順は絶妙でしたねぇ…。
阿久津先生も疑問手を指しているようには見えませんでしたけれどね…。
将棋は分からないです。

まゆ
分からないから、難しいから、こんなにも魅力的なんですよ…きっと。

 

 

対局は終わったはずなのですけれど、検討陣の熱気は醒めません。 とてつもなく高度な駆け引きを見た興奮と、底知れないものに対する畏怖のような感情が渦巻いていました。

 

この感覚をうまく表現できないのが、悔しいですね。

 

 

終局後

夜も遅くなったので、ほどなく解散となりました。外は予想以上に冷えていて、検討の熱気で熱くなった頬には厳しいくらいでした。

一人で家に帰る途中、思い浮かんだのは菜々さんの呟きです。

『一勝』の重さ。

本局も、あれだけの勝負が繰り広げられて、得られるのはたった一勝です。
ですけれど、棋士はその一勝に泣き、笑い、人生をかけて戦っています。
それは、ある意味異常な世界なのかもしれません。

ですけど、そのあり方に惹かれているのもまた事実です。

 

竜王戦は、本局で終わりではありません。5位決定戦も、挑戦者決定トーナメントも控えています。
そして同時進行で名人戦棋聖戦王位戦…いくつもの棋戦で、沢山の勝負が待っています。例えタイトルを獲って頂点に立っても、来期の勝負があることは変わりません。

 

一勝をかけた戦い。
それが一生、続いていくんですね…ふふっ。

 

 

(了)

 

 

追記

この後、井山裕太さんは4月20日、十段戦第4局で勝利して七冠達成を成し遂げました。 その偉業を、心から称賛したいと思います。

新田美波の棋戦講座  桜ともに開幕

 

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~事務所の玄関にて~

 

あ、アーニャちゃん、おはよう!

「ドーブラエ ウートラ! おはよう、ですね。少しずつ、暖かくなってきました。外の桜がきれいですね」

もう四月だから…そっか、ロシアや北海道はまだ寒いもんね。まだ慣れないかな?

「ニェート、それは大丈夫です。…ですけど、事務所や公園の桜はプリクラースナ、素晴らしいですね。こんなにたくさんの桜は、こちらに来てから初めてみました」

関東だと、桜は春の風物詩だね。

「…でも、すぐに散ってしまうのは少し寂しいですね」

だからこそ、いっそう美しいと感じるんじゃないかな。数日だけの満開を楽しむために、沢山の人がお花見をしているわけだしね。一年中咲いていたら、こんなに人は集まらないと思うよ。

「そういえば、カエデが花見、するみたいですね。昨日の夜、ついったぁ…というものを任されました」

楓さん……。エイプリルフールにかこつけて飲みにいくつもりね。 アーニャちゃん、大丈夫?Twitterの使い方わかる?

「ダー、それは大丈夫ですけど…、ミナミに一つ聞きたいことがあります」

何かな?

「最近、ミナミのレクツィア…講義を聴けてないですね。忙しいですか?それとも講義、イヤですか?」

全然そんなことないよ!?ただ、プロデューサーさんの企画と、日程が合わなかっただけで…。

「そうなのですか?よかったです…。ミナミ、講義してくれますか?」

そうだね、二人の予定が合ったら、またやろうか。それでいい?

「バリショーエ スパシーバ!アーニャ、嬉しいです。今すぐプロデューサーと予定を調整しましょう!」

ちょ、ちょっとアーニャちゃん、今すぐは早すぎるんじゃ…。

「『時間は待ってくれない』と、ミズキとナナが教えてくれましたね。すぐに行くべきです!」

確かに重い言葉だけれど…、まだ何も決まってないからちょっと待って!

「シト?…そうでした。内容が何もないですね」

これまでは、アーニャちゃんの疑問に答える形でやってきたけれど…。

「ンー、今度はミナミが決めてくれますか?」

私が決めていいの?

「ダー、ミナミがどんなことを教えてくれるのか、楽しみです♪」

そうね、春だし、桜もきれいだし…。あの話にしましょうか。

 

~数日後、事務所の一室~

 

 

美波

それでは、今回の講義を始めたいと思います。

アナスタシア

よろしくお願いしますね。ミナミ、今日はキレイでクールですね。最近の、簿記のお仕事もすごくよかったです。

美波

ありがとう。ちゃんと先生らしく、しっかりした格好も見せないとね。

アナスタシア

でも、『美波と簿記…意味深』とか言われてましたね。よく意味が分かりませんでした。

美波

!?……それは、分からなくていいことだと思うよ。

アナスタシア

ミナミ、顔赤いですね。

美波

そ、それはさておき、講義を始めますっ!
今回のテーマは春だから「名人戦」ね。

アナスタシア

シト、名人…ですか。棋士のことですか?

美波

確かに上手い人のことを「名人」と言ったりするけれど、将棋ではタイトルのことを指すのね。毎年、四月上旬から7番勝負が行われるの。

アナスタシア

パニャートナ、だから年によって「名人」が変わることがあるのですね。

美波

それでも、名人の称号を得た人は少ないのだけどね。

江戸時代から名人はいるけれど家元制で世襲だったし、今のような実力制になってからも73期行われて12人しかなっていないの。

特にここ13年間は、羽生名人と森内九段だけしか名人になっていないのね。

アナスタシア

シトー?他の人はいないのですか?

美波

郷田九段や三浦九段、行方八段といった方も挑戦しているのだけれど、いずれも名人の防衛に終わっているわね。

アナスタシア

そうなのですか。…何か、理由があるのですか?

美波

うーん、明快な理由…というよりは、「勢いで挑戦できない」ことは大きいかな。 C級2組から順位戦を戦ってA級まで勝ちあがって、更に1年間トップ棋士と戦って挑戦権を得なければいけないから、一時期の好不調で決まらないのね。

「なるべくして名人になる」みたいな言われ方はするかな。

アナスタシア

ニサムニェーンナ…たしかに、そんな方ばかりですね。

美波

今期の名人戦も開幕するし、過去の名人戦で「印象に残った1局」を他のアイドルたちにも聞いてみました!それを、少し解説してみたいと思います。

アナスタシア

ハラショー!みんなに聞いたのですか。楽しみです♪

 

 

第73期名人戦第4局 羽生―行方 戦

(平成27年5月20、21日)

 

美波

これは、去年の対局だね。戦型は相矢倉脇システム。覚えている人も多いかもしれないね。

アナスタシア

ンー、よく覚えてないですね。棋譜覚えられるほどアーニャ、強くないです。

美波

ちゃんと要点は盤に並べるから大丈夫。 後手が序盤から△5二金型保留で工夫して、先手の攻めがほとんど切れちゃったのね。

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アナスタシア

プローハ…悪いですね。勝てる気がしません。

美波

アーニャちゃんの言う通りで、先手は馬があるけれど攻めが切れていて先手敗勢なのね。…でも、ここからが恐ろしいの。

できるだけ難しい変化に誘導して、すごい追い上げを見せるのね。

難解な1手違いにまで持ちこんで、逆転勝利

決め手の▲9九歩も印象深い一手ね。

 

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 アナスタシア

……どうして勝てるのでしょう。わけが分からないです。

美波

対局後は、みんなそんな感じだったよ。ある棋士が「バケモノ・・・」って呟いていたしね。最近の名人戦ではかなりの衝撃だったかな。

興味があるなら、後で手順を並べてみるのもいいと思うよ。

 

……コメントも、羽生名人の勝負術を称賛するものが多いね。

 

「投了もあり得ると言われた局面から、逆転まで持っていく執念が素晴らしいです♪」(まゆ

「行方さんにはっきりした悪手はないのですが、細かなミスを誘発して迫る勝負術に感心しました。最後の▲9九歩も違筋の決め手です」(

 

次に紹介するのは、名人に研究で挑戦した対局だね。

 

アナスタシア

オー、楽しみですね。

 

 

第68期名人戦第2局 羽生―三浦 戦

(平成22年4月20、21日)

 

美波

三浦九段は研究家で有名で、この時の最大の武器が横歩取りだったのね。 「横歩取り△8五飛」戦法の全盛期で、本局もその形。 図の局面で羽生名人の封じ手になったのだけれど、ここまで三浦九段の研究だったの。

 

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アナスタシア

では、三浦九段は良いと思っているのですか?バチーム、どうして?

美波

次に△3七歩成があるから対応しなくちゃなんだけど、第一感は▲3九金だね。

飛車に当てて先手を取りながら、攻めの速度を遅らせてるの。

△1九飛成に▲5三桂成が激痛のように見えるのだけれど……

 

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アナスタシア

厳しそうですね。

 

美波

ここで、△5二香!の受けがあるのね。▲6二成桂と攻めを続けようとすると、△3九竜▲同銀△5八金!から詰んでしまう!これが三浦九段の研究だったの。

 

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アナスタシア

ニチヴォー!すごい手順です!羽生さんは、これを知らないのですよね?

美波

後日インタビューで、

「△3七歩の局面には絶対ならないだろうと思っていた」「だから研究はしていなかった」

と言っているから、知らなかったと思う。

ただ、封じ手まで60分の長考をして、▲3九金がうまくいかないことに気づいたみたい。

 

そして、封じ手は…▲5三桂成。攻め合いだね。

 

アナスタシア

ンー、先手のオクラーダ…囲いが壊れてしまいそうです。

美波

実際、右側の金銀は取られちゃうね。一番危険に見える順だから三浦九段も軽視していたみたいだけれど最善だったみたい。三浦九段にミスが出て、わずかに先手良しになるの。

激しく攻め合って、この局面。互いに危ないのだけれど、どう指せばいいのかが難しい局面なのね。 直接迫っていこうとすると、上に逃げられて入玉すら見えてくる…そんな状態かな。

アナスタシア

でも、先手も危ないです。何かしなければいけませんね。

美波

ここで指されたのが…▲5三歩。三浦九段も、この名人戦を通して一番印象に残った手と言ってたみたい。

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 アナスタシア

シト、意味がないようにみえます。どういうことですか?

美波

王手でも、詰めろでもないから後手は攻めに回りたい。例えば△8五歩▲同竜△7四金みたいに、上から抑えていくのが狙い筋なの。 でも、ここで攻めようとすると▲5二歩成に△同竜と竜をバックさせられて、先手玉が安全になるのね。

「後手が動こうとすると、働いてくる手」という感じかな。

……これを指せる人は、羽生さんくらいしかいないと思うけど。

 

アナスタシア

これで、先手がいい…ですか?

美波

結局△5三同玉と取ったのだけれど大きな利かしで、▲4六銀から攻めて先手が勝ちになったの。

羽生名人の感覚と、読みの深さが表れた一局かな。


コメント

「三浦九段の研究を読みで打ち破った羽生名人の強さを見せつけられた対局でした。また、研究に偏りすぎることの弊害も感じた一局でした」(

「事前に準備ずるのは当たり前やけど、それを徹底しても勝てんから難しいなぁ」

亜子

 

この対局を含めて横歩取りは3局あったんだけれど、全て羽生名人の勝利。ストレート防衛を果たすの。

相手の得意戦法を正面から受け止めて破る。これが羽生名人のスタイルなのだけれど、挑戦者側のショックは大きいみたい。挑戦者側はタイトル戦を境に勝率が落ちることもあるみたいだし……。

 

アナスタシア

大変な、世界なんですね。

美波

名人戦は防衛の歴史だからね、A級順位戦を勝ち上がっても奪取することは難しいのよ。

有名なところでは、郷田九段が3-4で二回挑戦失敗しているしね。

「名人の壁」みたいなものを感じるシリーズは多いよ。

アナスタシア

シチナー…壁、ですか。アーニャも名人になった人、少ししか知らないですね。

美波

羽生名人、森内九段の前には谷川九段、佐藤九段、丸山九段…とそうそうたる面々がいらっしゃるけれど、それより前の方は引退された方ばかりになるのね。(加藤九段を除く)

つまり名人の歴史は、羽生世代で今も止まっているの。

前期の行方八段や、今期の佐藤天彦八段といった若い人達も挑戦してきているから、どこかで塗り替えられるとは思うけど…。

アナスタシア

『羽生衰えた』ですか?

美波

……アーニャちゃん、ネットの情報とかは、鵜呑みにしたらダメだよ?

その手のことは何年も前から言われているけれど、未だに四冠だからね?

アナスタシア

ダー、わかりました。よく分からないことは、ミナミに聞くことにします。

美波

私も完璧じゃないけれど……。アーニャちゃん、純粋すぎるからちょっと心配かな。

 

さて、名局はたくさんあるけれど今回取り上げられるのはこれで最後かな。

少し古い対局だけれど、名人戦棋士にとって何なのか…ということが表れているんじゃないかな。

アナスタシア

 そう聞くと、少し緊張しますね。

 

 

第40期名人戦第8局 加藤―中原 戦

昭和57年7月29、30日)

 

美波

これは、先にコメントを紹介しようかな。

 

「加藤九段が、年齢的にも最後のチャンスをものにしたシリーズでした。10番勝負は、今思い返しても涙が……」(菜々

「ひたすら加藤流で勝とうとする姿勢がすごいですね…ふふっ」(

 

アナスタシア

シト、10番ですか?7番勝負とミナミ言いました。

美波

7番勝負なのは変わりないんだけど、勝敗をまとめると分かりやすいかな。

 

第1局 持将棋

第2局 中原勝ち

第3局 加藤勝ち

第4局 中原勝ち

第5局 加藤勝ち

第6局 千日手

第6局 加藤勝ち

第7局 中原勝ち

第8局 千日手

第8局 加藤勝ち(奪取)

 

持将棋1回、千日手2回を挟んだのね。だから「10番勝負」と言われているの。

 

アナスタシア

プラーウダ リ エータ?…ほんとうですか?すごい死闘ですね。

美波

当時、加藤九段は42歳。結果的にこれが最後の名人挑戦になったのだけど、奪取に成功したのね。第8局は開催する場所が見つからなくて、将棋会館で指した…なんてこともあったみたいね。

アナスタシア

ヒストーリエ…歴史を学びましたね。内容はどうだったのですか?

美波

加藤九段の先手矢倉加藤流になったのだけど、中原名人優勢になるのね。実際、名人に勝ち筋はあった…と加藤九段が述懐しているの。

斬り合いになって、クライマックスがこの局面。

加藤九段は1分将棋。アーニャちゃん、どうすればいいか分かる?

 

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 アナスタシア

ンー、後手が詰みそうですけど、難しいですね。詰むのですか?

美波

▲3一銀(投了)△同玉▲3二金!これで詰みなのね。△同玉に▲5二竜で▲4三金と打てるから。

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銀に対して△3三玉と逃げても、▲3二金△4三玉▲4二銀成から詰むのね。

……この筋が二人とも死角だったみたい。

この筋を見つけた加藤九段が叫んだ…というエピソードもあるの。それだけ、「名人」という称号が重いということかな。

アナスタシア

棋士にとってのズヴェズダ…星なのですね。名人というのは。

美波

そうだね。あの羽生さんでも、米長名人に初挑戦した第6局、最後の▲7七角が重圧で数分間打てなかったらしいから。それだけ、重いものなんだと思う。

 

……本当にいろいろな名局が生まれてきたからここに全部載せることは無理だけれど、 棋士が人生を賭して目指す頂点…ということが分かってもらえたら嬉しいかな。

 

アナスタシア

まさにシンデレラ…ですね。

美波

魔法を掛けてくれる人はいないし、自分の力で駆け上がっていくしかないけどね。

 

興味が合ったら手順を並べるのもいいと思う。手の意味が全部分からなくても、気迫が伝わるような対局も多いよ。

そして、これからもそんな勝負が続いていくんだと思う。

 

アナスタシア

ナジェージタ…希望ですけど、続いてほしいです。

勝負は厳しいですけど、だからこそクラスィーヴィ…美しいと思います。

美波

名人戦も開幕するし、対局中の棋士の姿も観られるようになったからね。 その美しさがもっと広まればいいな。

 

今回は、これで終わりにします。ありがとうございました。

 

アナスタシア

バリショーエ スパシーバ!ありがとうございました。

アーニャ、一つ分かりました。棋士も、アイドルもよく似ていますね。大舞台に立つために努力して、駆け上がっていくんです。

 

美波

似ているところも、多いかもしれないね。

アナスタシア

あと、歌ったり、踊ったり、テレビに出たり、マンガになったり、きれいな服を着たり…。

それと、笑いを取ったり、コスプレしたりしてますね。

 

 

美波

それは……かなり一部の人だと思うよ。

 

 

 

 

(了)

 

 

参考書籍

「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」梅田望夫 著

土屋亜子の詰将棋紹介  江戸時代から現代まで

 

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 どーもどーも!土屋亜子でーす!

 今回はアタシが担当するんで、大船に乗ったつもりでお願いしますわ! まぁ、お仕事が増えるのは大喜びなんですけどねー。Pちゃんに何か奢ってもらおっと!

 

 今日やる内容はちょっと趣向を変えて、詰将棋の話をしようと思いまーす!

 

 ホントはもっと早くやる予定やったんだけど、Pちゃんが具合悪くしてな、企画が遅れてしもうたそうな。「時は金なり」って言うのになー。

 まぁ、偶然にも詰将棋選手権の日になったからよしとしましょうか!

 もとは、動画の投稿に間に合わせるつもりやったんやと。

 宣伝は基本!ということで置いときますね。

 

 【第八次ウソm@s祭り】346プロの細かすぎて伝わらない将棋名シーン集 ‐ ニコニコ動画:GINZA

 

 まぁ、これはアタシが演じているだけなんやけど、棋士やアマチュア詰将棋を作っている有名な人は多いのよ。内藤九段、谷川九段、浦野八段、二上九段…。 でも、手順が長かったり難しかったり、何をやってるのかよく分からない人って多いんじゃないかと感じるわけです。 というわけで詰将棋がどういうものか、また詰将棋ならではの手筋を解説していきます!

 

 ・基本ルール

 

 まず、詰将棋のルールからね!

 駒の動きとか、基本は本将棋と一緒!ただ、そこに追加ルールがあるというわけ。

 

・攻め方は、王手の連続で詰ます

・攻め方は、最短手順で詰ます

・玉方は、最長最善手順で逃げる

・玉方は、無駄な合い駒をしない

・攻め方の持ち駒以外の駒は、全て玉方が使える

・攻め方は、途中で入手した駒を使うことができる(使いきらないといけない)

・基本、詰みに関係ある駒し置けない

 

まぁ単純に言うと、「どっちも最善で指し合って、最終的に詰ます」って感じやね。

 

 ・詰将棋の歴史

 

 詰将棋は歴史が古くて、記録がある最古のものでも江戸時代に遡るんやな。

 今の本将棋のルールが出来上がったのが1600年頃、つまり関ケ原の戦いくらいと言われていますね。

 大河ドラマ真田丸」に将棋のシーンがあって盛り上がってたけど、「酔象」って駒が混じってたのね。
 あれは本将棋の一歩手前、「朝倉将棋」と言われるものらしいですわ。

 

 とにかく江戸時代の初期に本将棋は完成していて、徳川家康が将棋を保護した結果、華道や茶道と同じような家元制になるのね。「名人」の歴史もここから始まるわけ。

 大橋家と伊藤家という2流派の世襲制になるんやけど、保護の見返りに名人が「詰将棋を幕府に献上する」って慣習があったのね。 この中で、詰将棋が「作品」として洗練されていくわけやな。

 

 有名なのは7代名人伊藤宗寿の「将棋無双」、その弟の伊藤看寿の「将棋図巧」。

 江戸時代の詰将棋黄金期…と言えるかもしれんな。難解かつ構想が非常に美しくて、特に図巧は最高傑作と今も言われてるのよ。本人も将棋が強かったんやけど、兄の宗寿から名人を受け取る前に亡くなってしまったらしい。…悲劇の天才やな。

 

 この後、詰将棋を献上する慣習そのものが消えてしまったらしくて、詰将棋の創作が盛んになるのは戦後になってからやな。今では「詰将棋パラダイス」とか、詰将棋専門の雑誌もあるくらいや。

 

 ざっとこんな感じやけど、詰将棋ならではの筋を紹介していきますわ。

 

 

・不成の手筋(銀、桂、香)

 

 実戦でも時折現れる手やけど、銀や桂みたいな小駒は不成の方がいいことがあるのね。 例えば、こんな形。

 

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 ▲2三桂不成△2一玉▲1一香成まで3手詰

 

 ここで▲2三桂成は詰まない。でも▲2三桂不成なら、香車と桂馬の両王手で△2一玉と逃げるしかない。そこで▲1一香成で詰みってわけやな。

 こういう、実戦ではなかなか現れない、筋が詰将棋では多いから頭の片隅にでも置いといてな。

 

 

・不成の手筋(飛、角、歩)

 

 これは実戦ではほぼ現れんね。谷川九段が指したことあるらしいけれど昔の話やし、王将戦(佐藤―渡辺戦第1局)の変化にあった……とか、ごく稀な筋や。

 これらの駒は、成った方が上位の働きをするから普通は成るべき駒なんやけど……唯一、不成が活きる変化があるのね。それが、「打ち歩詰め」。

 

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▲2三歩不成△1一玉▲1二歩△同玉▲3二竜△1一玉▲2二竜まで、7手詰

 

 この局面で▲2三歩成は△1一玉で打ち歩詰め。でも、▲2三歩不成なら△1一玉に▲1二歩と打てるのね。△同玉に▲3二竜で詰みと。

 図巧には飛車不成が二回ある詰将棋もあるし、今では数十回も不成が入る作品もあるとか。 ……アタシもそこまでいくと、別世界に感じるなぁ。

 

 

・合駒問題

 

 飛車、角、香車を離して打つと玉方が合い駒を打つ可能性があるんやけど、これもまた難しいのね。

 打つ駒によって、後の展開が大きく変わったりするから「どの合い駒が正しいのか」を考えなきゃいけないのよ。これなんかもそうだけど、週刊少年ジャンプのマンガに載ったから有名かな。 元は「大道詰将棋」って言って、お金を払って解けたら金品がもらえるって仕組みだったらしい。縁日の型抜きみたいなやつね。

 

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他でも解説されてるみたいやけれど、▲2九香の王手に△2三銀と打つのが最善の応手。 「中合い」という合い駒の手筋で、▲同香不成は△1二玉で不詰め。香車が邪魔になってしまうんやな。 だから▲2二歩△1一玉▲1二歩と進むんやけど、ここで△同銀と取れるのが銀を選択した効果ね。他の駒だと△同玉から早く詰むのよ。

 

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他の合い駒は、△同玉▲2三とから早詰み。角は後述

 

 ▲2一歩成△同銀。もし角を使っていたら、ここで▲2二とまでの早詰み。 あとは歩を使って詰むのだけれど、銀しか使えないことが分かってくれたかな?

 こういう、先の変化を読みながら最善の合い駒を考えないとアカンから大変なのね。

 ……もちろん、創る方も大変なんやけどね。

 

 代表的な筋はこれくらいかな。今度は、特徴的な詰将棋を解説していきますっ!

 ……ちょっと難しいから、「こんなものもあるんだ~」くらいでいいからね。

 

 

・煙詰

 

 駒を39枚(攻め方の玉以外)盤に配置して、最後の詰み上がりのときに盤上に残る駒は3枚だけ(玉と、詰ます駒2枚)という詰将棋ね。他は全部、玉方の持ち駒になっているわけ。駒が煙のように消えるから煙詰ね。

 図巧の第99番が初出なんやけれど、まず構想からしておかしいのよ。 「39枚の駒を置いて、36枚捨てる」って発想も、それを実現することも普通はありえないのね。……芸術作品の領域ですわ。

 将棋図巧第99番

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詰め上がり図(右)では、3枚残して全て盤から消えている。

 

 実際、煙詰の2号局は1954年発表なので、図巧が献上された1755年から約200年掛かってます。それくらい、作るのが難しい詰将棋なのよ!

 

 浦野八段はこの煙詰を創って、素晴らしい詰将棋に送られる「看寿賞」を受賞しています。 対局でいうところの「名局賞」みたいなものね。

 

 

・実戦形詰将棋

 

 実戦に出てきそうな形を詰将棋に織り込んだものね。矢倉に囲われた玉とか、美濃とか、穴熊なんてのもあります!

 その中でも秀逸なのが「玉方実戦初形」と「攻め方実戦初形」です。

 これは駒を本将棋の初期配置に限定する…というものね。ここで問題になるのが、

「詰みに関わる駒しか置けない」

 というルール。つまり、玉方実戦初形ならば1一の香車から9一の香車まで、全部に意味がないといけないわけ。 図巧の第97番はそれを目指したものだけれど、完全ではないのよね。かなり苦心した配置になっていますし。

 将棋図巧第97番

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1段目は初形だが、飛角や歩は置ききれていない。

 

 完全な作品は1981年の神戸新聞に発表されました。作成者は内藤國雄九段。

 内藤國雄九段の「図式百番」という詰将棋集があるんやけれど、その第98番、第99番は「玉方実戦初形」と「攻め方実戦初形」になってますね。内藤先生の本に載ってるからここには上げへんけど、興味があったら買うのもありかもね。手順だけでもすごいから。

 この2作を作ったことが評価されて、「看寿賞」の特別賞を受賞しています。

 

 

・無仕掛け

 

 盤上に、攻め方の駒が一枚も無いものね。

 大駒や桂馬で詰ます足掛かりを作るんやけど、捨て駒から入る問題や合い駒問題も多くて難しいのよ。谷川九段は作成も得意だったはず。あの人も詰む詰まないの読みがすごいからなぁ…。

 で、玉方の守り駒も無い「裸玉」というのもあるのね。まず、これで詰将棋になるという発想を持つこと自体、一般人のアタシには理解できんわ。

 初出はやっぱり将棋図巧から。 何で最高傑作と名高いか、ここまでくると分かってもらえるかな?

その第98番。

 

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 その後作成された完全な裸玉の第2号は1942年だから、こっちも約190年掛かってるわけで、江戸時代に思いつくこと自体が恐ろしい…。

 

 次で、紹介は最後にしようかな。

 

 

・長手数

 

詰将棋はどれだけ長くできるか」というのも昔からのテーマなんやけれど、根本的な問題があるのね。

 

 盤面って、81マスしかないのよ。

 

 つまり、1マスずつ玉が移動したとしても、160手かそこらしか掛からないわけ。

 守り駒でも攻防にも限界があるから、これ以上長くするには同じ地点を繰り返し移動させる必要があるのね。しかも、同一局面にはできない…。

 長い間、最長記録だったのが将棋図巧第100番「寿」。更新されたのが1955年ね。

 伊藤看寿は、第98番「裸玉」第99番「煙詰」第100番「寿」と、約200年越えられない壁として存在し続けた作品を3つも創ったわけ。…スケールが大きすぎてわけがわからんわ!

 将棋図巧第100番「寿」

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 手数は611手!竜で追いかけながら、持ち駒が僅かずつ変化していく「持駒変換」という技法や盤の駒を消していく「置駒消去」という手筋もある。そうやって似て非なる局面を繰り返しながら、詰みまで持っていくというわけ。

 ……一応言っておくけれど、これを変化含めて全部人力で読まないといけないのよ。江戸時代にソフトはないし、今のソフトですら全部読み切るのは難しい。 作成は人力やしね。

 

 今の最長記録は、1986年の橋本孝治さんの「ミクロコスモス」ね。

 手数は1525手!30年経った今でも不滅の記録ですわ。

 

 これも似たような局面の繰り返しで手数を長くしているのだけど、新たな筋がいくつかあるのね。少しだけ紹介。

 

「知恵の輪」

 

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 こんな感じで、と金を配置すると、▲2一と左△3二玉▲3一と左△4二玉▲4一と右△3二玉▲3一と右△2二玉みたいに玉を自由に誘導できるのね。これで、右に左に玉を移動させて駒の配置を変えていくわけ。

 

「馬鋸」

 

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 玉が横に移動すると、馬も王手しながら鋸のように近づいていく。

 

 9九の馬が8九~8八~7八~7七…と王手を掛けながら移動していく指し方で、少しずつ馬が近づいていくことになるのよ。

「ミクロコスモス」では、9九から6六まで移動させて、最後に馬を活用して詰まし上げる!

 手数を数えるだけでも一苦労ね。最初、制作者の人も手数を数え間違えていたとか…。

 

 

 

 こんな感じで有名なものを取り上げてきたけれど、正直なところ、詰将棋の創作ってなかなか「報われない」のよ。

 これだけすごい詰将棋を創っても広く知れ渡る世界じゃないし、本がベストセラーになるわけでもない。

 浦野八段の本は有名やけど…あれは商売上手というのが大きいかな。

 

 それでも詰将棋に取り組む人がいるのは、利益とかを度外視した魅力がそこにあるからなんやろね。

 

 もちろん終盤力を鍛えるという面でも詰将棋は非常に有効ですよ。

 アマチュアで強くなりたい人は、短手数でいいから脳内で駒を動かして詰ます練習をするといいと思うわけです。

 ただ、突き詰めていくと別世界が広がっているのが詰将棋…ということが分かってもらえたら、アタシも解説したかいがあるってもんですわ!

 

 ここには示さないけれど紹介した作品の手順も素晴らしいし、他の詰将棋もすごいのが沢山あるから、興味を持ったらぜひ調べたり、読んだりしてね。

 

 

 

 …なんや、詰将棋選手権で13歳の藤井三段が活躍しているらしいですねぇ。

 アタシより2歳下なんですけれど、世界は広いなぁ……。

 

 

(了)

 

参考作品

将棋図巧(伊藤看寿) 第97番、98番、99番、100番

 

図式百番(内藤國雄) 第98番、99番

 

ミクロコスモス(橋本孝治)

 

※不成のところにある2題はPちゃん作ね。

 

立ち絵 藻P

北条加蓮の徒然観戦  シンデレラは終わらない

            「北条加蓮」の画像検索結果

 

「3―2で奪取と予想する。今の佐藤ほどの勝ちっぷりは他の人を含めてもあまり記憶にない。ここまで勝ってタイトルを取れないのは酷なくらいだ。」

「防衛すれば、「こんなに勝っても羽生には勝てないのか」と知らしめることになる。」

 

王座戦前のインタビュー記事を見て、私は目を疑った。

普通の棋士なら流して読むところだけど、この発言が渡辺棋王から出たことに衝撃を受けたのだ。

去年のことになるが今期の王座戦は、羽生王座に佐藤天彦八段が挑戦することとなった。

こういうタイトル戦の前には別の棋士による前評判のような記事が出るのだけれど、その中の一文である。

渡辺棋王は、他の棋士を褒めることはほとんどしない。知らない人が見れば辛辣ともとれるコメントを残すタイプの人だ。戸辺六段、村山七段を含めて「酷評三羽ガラス」という表現もある。

そんな人が佐藤八段寄りの立場から残したコメントの数々は、意外を通り越して疑問に思うほどだった。

もちろん、そう言わしめるだけの実績はある。A級に上がった今期、この時点(8月30日の記事)トップ棋士を相手に勝率が8割。A級そのものもトップで挑戦者争いを走っていた。そして、後手横歩取りは文字通り「無敗」。

塚田九段の塚田スペシャルとか、久保九段のゴキ中や石田流のような、周りの棋士も恐れる伝家の宝刀を引っ提げてのタイトル戦だった。

もう一人、村山七段が羽生王座寄りのコメントをすることでバランスをとる構成だったことも多分に影響しているだろうが、それでも頭をよぎるのは彼らの仲の良さだ。

佐藤天八段と渡辺棋王は非常に仲が良い。このあたりの話は周知の事実だったりするのだけれど、今では佐藤八段を含めた「酷評四羽カラス」という呼称もつくほどだ。

それが悪いことだとは全く思わないけれど、棋士は、最終的には商売敵である。

今では伝説となった「島研」では、対局が主で解散の理由もタイトル戦で当たるようになったから。そして最後の打ち上げで止まったホテルではやることがなくて部屋に籠りきり…というおまけ付きだ。

ここまで徹底する方も珍しいかもしれないけれど、世代ごとの感覚の違い…のようなものを感じた。

 

そんな個人的な屈託とは関係なく対局は進んでいき、王座戦は羽生王座が3-2で防衛。

文字通り、「こんなに勝っても羽生には勝てないのか」

と知らしめることになった。

そして、それからほどなくして佐藤八段は次の挑戦を決める。

その相手こそがこのコメントの主、渡辺棋王だった。

 

 

 朝。

……体が重い。どこからきているのか分からない、鈍痛ともいえる違和感。

そんな漫然とした体調不良に不安すら覚えなくなったのはいつからだろう。

今日が祝日で良かった、そう思いながらゆっくりと体を起こし、朝の支度を一通りする。

…たぶん、今日は一日外に出られる状態にはなれないだろうけれど。部屋で横になって、嵐が過ぎ去るのをじっと耐えるしかない。いつまで続くか分からないし、完全に過ぎ去る…ことはないみたいだけれど。もうそれにも慣れてしまった。

今日が祝日なのが不幸中の幸いだ。

 

パソコンをつけて、少しいじったところで今日がタイトル戦だったことに気がついた。

王将戦が終わってまだ2日。対局者は違えど、非常に過密だ。

「そっか、今年度も終わりだもんね」

将棋界は私たち学生と同じく4月から新しい1年が始まる。それまでに、前期のタイトル戦は終わらせなければならない。

日程をみると、次の棋王戦第5局の予定は3月31日だった。本当の意味で最終局だ。

 

ここまで渡辺棋王の2勝1敗。1敗は佐藤八段の後手横歩につけられたものだけれど、他は堅実な指し回しが光る勝利だった。特に、第3局の△8三銀打からの指し回しは渡辺棋王の棋風が凝縮されたようだった。

 

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恐ろしいまでの佐藤八段の粘りも印象深かったけれど。

今度は佐藤八段の後手番。志向する戦型はほぼ間違いなく後手横歩取りだろう。そして、渡辺棋王もそれを受けるはずだ。そういう棋風だし、A級順位戦最終局で佐藤九段相手に後手横歩を試したのも、全く関係がないわけじゃないだろう。

 

午前九時、西村九段の開始の合図で始まった対局は、大して時間を使うことなく横歩取りへと進んだ。

 

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▲7六歩   △3四歩   ▲2六歩   △8四歩   ▲2五歩   △8五歩

▲7八金   △3二金   ▲2四歩   △同 歩   ▲同 飛   △8六歩

▲同 歩   △同 飛   ▲3四飛   △3三角   ▲3六飛   △8四飛

▲2六飛   △2二銀   ▲8七歩   △5二玉   ▲5八玉   △7二銀

▲3八銀

 

最近よく指されているのは△2三銀から△2四飛とぶつける指し方で、研究も非常に盛んだ。

でも、先に変化したのは先手の方だった。▲3八銀。さっきの▲3八金型と違って横や下からの攻めに強く、▲3六歩から、銀や桂を繰り出す攻めも見せている。

例えばここで△2四飛から飛車交換して攻め合ったとき、△7九飛のような攻めが効きにくい。

しかし、先手玉は非常に薄く別の攻め筋が生まれることになる。主流にならないのもそのためだろう。

 

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△7四歩   ▲3六歩   △7五歩   ▲3五歩   △7六歩 ▲3七桂  

△2七歩   ▲2九歩   △7四飛   ▲7五歩   △5四飛 ▲7六飛  

△2四飛   ▲3九金   △8二歩

 

△7四歩~△7五歩がその攻め手順。桂を跳ねる余地を作りながら、戦端を開く。そして、△2七歩から2筋を狙う。

▲3八銀型だから生じる弱点だ。ここまでくると、先手玉の薄さが際立って見えてくる。それが形勢には直結しないけれど、特に右辺はきれいな形とは言えない。ここからどうするのか。

そんな局面でお昼になった。

 

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▲7七桂   △5一角 ▲6八銀   △3三桂   ▲9六歩  

△2三銀   ▲9五歩   △1四歩 ▲1六歩   △4二玉  ▲8五桂

 

軽く済ませてから少し横になる。奈緒に知られたら絶対にお粥を食べることになってしまうけれど、それじゃあ1年に何回食べればいいのか…きりがない。

13時を回って指された手は▲7七桂。角交換を拒否しながら、攻めも見せている横歩取りらしい一着だ。

後手は角交換が望めないので△5一角。もし、ここで▲7四歩と突くと△8三銀が狙いになる。角がいるので▲7三歩成がないのだ。

ここからはしばらく陣形整備が続き、先手は9筋の位を、後手は銀冠の完成を主張した。

そして、▲8五桂。ここから、一気に流れが激しくなる。

 

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△7三桂 ▲同桂成   △同 角 ▲4五桂打 △4一桂   ▲7四歩  

△6四角   ▲3三桂成 △同 桂 ▲6五桂   △5二金 ▲7三歩成

△同 銀   ▲同桂成   △同 角   ▲3三角成

 

桂交換から後手は角を捌く。▲4五桂△4一桂の瞬間は千日手の三文字が頭に浮かんだけれど、先手からすれば面白くない順であることは確かだ。ということで桂馬を交換しなおして▲6五桂。打開するならこのくらいだが、これが結構厳しい。

7筋の攻めと、5筋も睨んでいる。▲5六飛と回ったところでは、攻め駒が非常によく働いているので先手の模様が良く見えてきた。玉も、相対的にみると手厚い。

でも、ゆっくりしていると△7六桂の両取りがある。渡辺棋王は、▲3三角成と一気に斬りこんだ。

 

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△同 玉 ▲3四桂   △2五桂   ▲4一銀   △3七桂成 ▲5二銀成 △2八歩成

▲同 歩

 

これを△3三同金と取ると、▲4五桂が厳しい。6五桂から5筋を突破する手もある。そこで△3三同玉。ここでも▲4五桂があるけれど、△2二玉から端に逃げ込んで意外に耐久力がある。これはこれで難しい戦いだろう。

だから▲3四桂で玉を縛ったのだけれど、△2五桂が佐藤八段の実力を見せた一手。

桂交換から3五の歩を取れば、先手の攻めは切れてしまう。手抜くしかないけれど、かなり厳しい成桂ができた。流れが後手に傾きはじめたように感じる。

このあたりから、渡辺棋王の背筋が曲がって前傾姿勢になってきた。

 

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△5四歩   ▲7四歩   △6四角   ▲5四飛   △6六桂

▲6九玉   △7八桂成 ▲同 玉   △6六桂   ▲8八玉

 

△5四歩は、なんとなくだけれど好手だと思った。実際、読んでみても好手なのだけれど。

先ほどまで先手は▲5三飛成からの攻めがあって、後手が上手く受ける手が難しかった。

それなのに△5四歩で手を渡されると、今度は先手が手段に窮してしまっている。

成桂があるから攻めるしかないけれど、飛車を使う以外に早い攻めはない。

角を6四に呼んで飛車を切れる形にしてから歩を取ったが、これには△6六桂がある。

▲同歩は△4五角が両取り。玉を引いて受けても、おかわりがある。

あれだけ安泰だった先手玉が、一気に危険になった。

難解な終盤が、幕を開ける。

 

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△2六飛 ▲2七歩   △同成桂   ▲2五歩   △4五角   ▲6四飛  

△同 歩 ▲5六桂   △7八飛   ▲9七玉   △3四銀   ▲同 歩  

△同 玉 ▲2四金   △3五玉   ▲5三角   △4四桂   ▲3六歩  

△同 飛▲2七銀   △5六飛   ▲同 歩   △2七角成

 

夜になってもあまり食欲は湧かなかったので、軽く済ませるだけにして中継画面に戻る。

奈緒が知ったら絶対に怒るだろうな。

 

現局面は▲4五桂までの詰めろなので、△2五飛で逃げ道を開ける。

▲2七歩を取るのは効かされのだけれど、△7六角のような寄せ合いは先手に分がありそうなので仕方ない。

▲2七歩からは互いに1分将棋。見ているこちらも理解するのが大変な局面が続く。

「敵の打ちたいところに打て」で△4五角、飛車を持って△7八飛。即詰みはないけれど、銀を持てば先手玉は詰む。

先手の攻めに制限を掛けてから▲3四銀と手を戻す。先手はほぼ受けがないので(△3八成桂が詰めろになる)後手を寄せるしかない。

▲3六歩も悩ましい手で、△同角は▲4六銀の一手詰み、△同玉は▲6四角成が詰めろで寄り。

△同飛も▲2七銀が厳しいように見えるが、△5六飛▲同歩△2七角成が妙手順だった。

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後手は念願の銀を取って、詰めろ逃れの詰めろ。

互いに、ミスらしき手は見当たらない。だけど、それまでのわずかな差が広がっているように思える。

観戦している人も、解説をしていた棋士も後手の勝利を、第5局を想像した。それくらい先手が窮地に見える局面。

50秒を読まれたところで、渡辺棋王の右手は駒を持って後手玉を通り過ぎ、左側へと舞った。

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▲7七桂。

「えっ……?」

思わず声が漏れる。そして、直感的に何か嫌な予感がした。

詰めろを受けた。…いや、これで受けきれるわけじゃないけれど、渡辺棋王は諦めた手つきではなかった。

「6五の地点を塞いでる…?」

直感が、具体的な読みで現実になっていく。

後手玉は4五~5四(5六)~6五~7四と逃走ルートがあったからまだ安全だったわけで、6五の地点を止められると一気に危険になる。詰んでもおかしくない。

「30秒…」

秒読みの声で一瞬我に返る。そうだ、1分将棋だ。

恐らく佐藤八段も予想していないこの勝負手に、対応する時間はあまりにも少ない。

詰めろなのか、そうでないのか、先手を寄せる手段はあるのか、変化が多すぎて読み切れない。

「50秒、1,2,3,4,5,6,7」

パシッ

 

佐藤八段の手は△8五桂。なるほど、▲同桂なら6五の地点が開いて後手玉は安全になる。

そして、王手だからひとまず詰まされる心配はない。

このまま、寄せれば後手勝ちが決まる。だけど……

 

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▲9六玉   △8八飛成 ▲3四飛   △4五玉   ▲6四角成 △9九龍

▲8五玉   △8三香   ▲7五玉   △9五龍   ▲8五銀   △同 龍

▲同 桂

 

▲9六玉。ここで端の位が活きた。ここで△7七桂成で寄れば後手が勝てる……

……詰めろにならない?

後手は▲3四飛△4五玉▲6四角成で必至。だからここで詰ますしかないのだけれど、成桂が邪魔をして先手玉が詰まない。

「これって…もしかして…」

先手が勝つ?あの▲7七桂で?

頭が追い付いてこない。△2七角成のときの、終局が近い雰囲気は完全に消えてしまった。

 

△8八飛成で先手玉に迫るけれど、上部が抜けている。

そして、▲3四飛から後手玉は受けなし。△9九竜から相当に怖い形だけれど、7五の歩を取って6六~5七と逃げるルートがある。

後手の2七の竜が、玉の陰になっているのも痛い。

1分将棋の中、佐藤八段がリップクリームを持って勢いよく唇に塗った。

渡辺棋王の背筋も伸びている。

終わりが近い。

 

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まで、125手で先手の勝ち

 

▲8五同桂を見て、佐藤八段は脇息に両腕でもたれかかり、両手に顔をうずめる。

悲壮……という文字では表しきれない姿がそこにあった。

正座になおり、投了。感情を抑えながら、はっきりとした声で告げた。

そしてこの瞬間、棋王戦は3勝1敗で渡辺棋王の防衛、4連覇が決定した。

 

投了の後、しばらく無言の状態が続く。佐藤八段はうなだれ、渡辺棋王も慮って盤面を見つめるだけ。先に声を出したのは、佐藤八段の方だった。

「金でしたかね」

▲7七桂の局面の話だ。やはり、勝負を分けたのはここだろう。

少し会話をしたところで、新聞社のインタビューが始まった。そして大盤解説会へ向かう。

それが終わって戻ってきてから、感想戦が始まるのだろう。

 

 

 

「………………」

そこまで確認してから、私はベッドに倒れ込む。恐ろしいほどの何かを見た興奮と動揺、そして全てが終わった現実が一気に降りかかってきて、何がどうなっているのか自分でも分からない。

ただ、体がそれまでの疲労を思いだしたように重くなってきて、自分の体調が悪かったことも認識する。

1分。何も考えなくても過ぎてしまうそんな短い時間に、対局者は膨大な量の読みと判断、そして勝負術を駆使していた。人間の脳に限界があるとしたら、あの瞬間なんじゃないかと思うくらいに。

名局を観た感動…というより、茫然自失の方が近いかもしれない。こんな対局を観たのは、いつぶりだろう。

感想戦が始まるまでの間ずっと、得体の知れない余韻は続くのだった。

 

 

感想戦で重点的に調べられたのは、やはり▲7七桂の局面だった。

ここでまず驚くべきことは、渡辺棋王がこの手を「負け」と思って打っていなかったということだ。実際、ほとんどの変化が「先手勝ち」になる。

△8五桂は、本譜のように詰めろが掛からなくなるから後手負け。

△8四桂も詰めろが続かない。

△6八飛成はそっぽでやはり負け。

△8五金(取れば詰み)が正着とされたけど、金を手放す見えにくい手の上に、ここからがまた難しい。

▲3四飛△4五玉▲4六歩と突いて、後手玉は怖い形だ。

 

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△5六玉と逃げたいところだが▲5七銀打とされて、△5五玉と引くしかない。

(△4七玉は▲4八金まで)

▲6六銀と王手で桂を取って、△5四玉に▲8八桂で先手玉が受かっている!

 

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次に金取りがあるのでこれも先手勝ち。ここまでが渡辺棋王の読みだというのだから恐ろしい。

戻って▲4六歩には△同玉と取るのが正しく、▲6四角成に△4七玉と敵陣に入ると、僅かに詰まない!

先手に1歩あるとこの筋も先手勝ちなので、▲7七桂の局面は非常にギリギリの形勢だったと言えると思う。…ただ、後手が勝つ順は最善の1通りしか見つかっていないけれど。

 

 

佐藤八段が「1分じゃ見えない…」と漏らしていたけれど、これを1分で読み切るのは無理というものだ。

膨大な変化がある上に最善が△8五金~△4六同玉という、直感を無視するような手の連続だった。

将棋はその仕組み上、何もないところから妙手が生まれるわけじゃない。

△2七角成の局面で、▲7七桂と打つこと自体は誰にでも可能だ。でも、あの勝負手があることを見つけて、読んで「勝てる」と判断して指すことは普通の人には到底できない。逆に言えば渡辺棋王は指せるからこそ、タイトルを防衛することができた。

感想戦が終わって中継が終了しても、対局の余韻が消えることはなかった。

 

 

しばらく前に、佐藤八段をシンデレラに例えて書いた記事があったことを思い出した。

でも、棋士の世界に魔法を掛けてくれる魔法使いはいないし、馬車に乗って皆を追い越すこともできない。自分の足で、階段を登っていくしかないのだ。

王座戦棋王戦はわずかに届かなかったけれど、4月からは名人戦がある。そして、来期のタイトル戦が始まっていく。この物語はハッピーエンドで終わらない。例え7冠を達成しても、長い戦いが続くことはあの人が示している。

それは佐藤八段だけに限らない。上を目指して沢山の棋士が戦っていて、これから誰が駆け上がるかは分からないのだ。

 

 

 

最後に確認した中継ブログに、1枚の写真が載っていた。感想戦の前に解説会場に移動する対局者の後ろ姿なのだけれど、二人が並んで歩いている。移動中も、変化を口頭で話し合っていたそうだ。

珍しい光景だけれど、そこには二人だけの世界があるようで…。悪い気持ちはしなかった。

 

 

「お疲れ様でした」

思わず、そんな呟きが漏れる。

今期最後のタイトル戦が、最高の名局だったことを噛みしめながら画面を閉じた。

 

 

(了)

橘ありすのソフト解説  ボードゲームと人工知能の関係

 

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みなさんこんにちは、橘です。…名前で呼ばないでください。

 

 

最近、将棋や囲碁においてソフトの棋力が著しく上昇し、様々な話題となっています。

その中でも、「人工知能(AI)」という単語を使って紹介するニュースも多いです。

ですけど、いったい何が起きているのか、ソフトがどういうものなのか、分かっている人は少ないと思います。

正しい情報を持たずに踊らされることほど、愚かなことはありません。

ということで、今回は僭越ながら私が、コンピューターとソフトについて少し解説をしてみたいと思います。

 

もくじ

 

・コンピューターの基本は計算

・ソフトは目的のための命令リスト

・ゲームにおけるソフトの研究

・将棋ソフトの簡単な流れ

・将棋ソフトの強さの特性

・将棋ソフトの弱点

クラスタ接続について

囲碁のソフトと人工知能

人工知能とは何なのか

・さいごに

 

 

・コンピューターの基本は計算

 

まず、ソフトはコンピューターで動きますので、コンピューターから説明しなければいけません。 世界初の実用的なコンピューターは1947年のENIACというアメリカのもので、軍事的な計算などに使われたそうです。当時はまだ第二次世界大戦前後のころですから、そのような背景もあったようです。

f:id:kaedep:20160313202753j:plain(当時は巨大な機械でした)

 

ENIACがそうであったように、コンピューターは基本的に『計算』をする機械です。

菜々さんがコンピューターを「電子計算機」と呼んでいましたけど、それが本来の機能なんですね。

原理を、少し説明します。

 

ここに電球が10個あります。(下の丸は電球です) これを点ける、点けないの並びは、何通りあるでしょうか?

 

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

答えは、1024通りです。

一個の電球で表示できるのは2通りですけど、2個目の電球も2通り、3個目の電球も2通り……。と、続いていくわけで、式で表すと

 

2×2×2×2×2×2×2×2×2×2=1024

 

となります。電球は10個でなくてもいいですから、数を増やしていけば表示できる数は爆発的に増えていくんですね。 美波さんから、こういうものを「指数関数」というのだと教わりました。

 

これを電球ではなく、回路内における「電子のある、ない」で表示するのがコンピューターです。

電子ですから、とても小さくてすみます。今では、スマートフォンタブレットに収まるまでに小型化されました。

小さいですけど、膨大な数を扱えるのがコンピューターの特徴なんです。

各国のスーパーコンピューターが性能を競っていますけれど、あれも「計算能力の高さ」を競っているんですね。

細かなことをいえば2進数とか、ビット数とか、回路の種類とか…いろいろありますけれど、今回は省略します。

 

 

・ソフトは目的のための命令リスト

 

普段、私達は数ではなく、文章を送り合ったり、画像を保存したり…といった、違った形で使っています。 コンピューターが扱う数を計算したり、別の情報に置き換えるのが『プログラム』です。ここにある命令に従って、コンピューターは動きます。ソフトの中にも沢山のプログラムが入っています。設計図みたいなものですね。

「計算を目的の手段に落とし込む作業」がプログラム…と言えばわかるでしょうか。

パソコンにあるWindowsMacintoshといったOSも、プログラムによって構成されています。

これによって爆発的にパソコンが普及して今のマイクロソフトやアップルが…というのはまた別の話ですので興味がある方は調べてみて下さい。

 

ここまでをまとめると、

・コンピューターの基本は計算機である

・膨大な計算を命令を用いて利用したのがソフト

 

こんな感じです。次は、チェスや将棋、囲碁とソフトについてです。

 

 

・ゲームにおけるソフトの研究

 

上記のゲームは「二人零和有限確定完全情報ゲーム」というもので、単純に言うと

「二人で行う、条件が平等な、変化に限りのある、情報が全て公開されているゲーム」

です。理論上は結論があって、コンピューターが探索をしやすいゲームです。

…ただ、探索しやすい=読み切れる ではないです。

将棋では、指し手の数が10の220乗とも言われています。正確な数ではないですけれど、私たちが把握できないような数であることは変わりありません。

コンピューターにも把握できる数の限度があって、初期局面からしらみつぶしに読んでも結論まで辿りつけないんですね。

ですから、途中で局面を評価して、一番よくなる局面に誘導する必要が出てきます。

この、途中での「正しい評価」がコンピューターには難しい問題なんです。どこを見て「良い」とするのか、判断する基準が示されているわけではないですから。

人間の場合、「なんとなく」で判断して、それが合っていることも多いです。それに、一つの局面で候補手を数通りにまで絞り込むことができます。

どうすれば人間のように強くできるのか…。人間の知能を研究することができるのではないか。そのような観点を含めて、ソフトの研究がなされてきたわけです。

ちなみに、変化できる数ではチェス、将棋、囲碁の順に大きくなります。
(盤面の広さが多分に影響しています)

 

 

・将棋ソフトの簡単な流れ

 

将棋の場合、チェスに比べて遅い発展でしたが、1970年半ばから始まったそうです。しかし、ハードが発展していく中でも、思うような結果は出ませんでした。

そこに大きな革新をもたらしたのが、2005年に登場したBonanza(ボナンザ)です。 チェスの論文を参考に作られたこのソフトが画期的だったのは、評価関数における「機械学習」の導入です。

従来のソフトは局面を判断する評価値、その元となる関数を手動で決め手いました。

例えば、「角は100点、金は56点、銀は45点…」みたいに。

この点数を、コンピューターが設定する。そういうプログラムを導入しました。(文章にすると簡単ですけど、かなり高度な話です)

この方法は「ボナンザメソッド」と呼ばれ、ソフトの著しい棋力向上につながります。

 

当のボナンザは2006年の第16回世界コンピューター選手権に初出場し、初優勝を果たします。ノートパソコン1台(周囲よりも低スペック)での優勝は、ソフトが優れていた事を証左でしょう。

ボナンザと渡辺明竜王との対局は2007年3月21日のことで、記憶している方も多いと思います。
終盤の一失で敗れますが、ニュースでも大きく取り上げられました。

 

今の将棋ソフトがある1番の理由は、ボナンザのソースコード公開です。(2009年1月)

ソースコードはソフトの設計図で、プログラムのリストです。これが公開されたことで、ボナンザの中身を誰でも学んで改良することができるようになりました。
初期は「ボナンザチルドレン」といった用語が生まれたほどです。

ここから、加速度的に棋力が向上していきます。

第1回電王戦のボンクラーズ、をはじめ、強いソフトが沢山生まれてくる事態になり、第2回、3回電王戦では棋士側が負け越すことになります。

優秀な技術者(プログラマー)の方々の力も非常に大きいです。ソフトの設計図は技術者の方が書いているわけですから、この方々の努力が今に繋がっていることは言うまでもありません。

 

 

・将棋ソフトの強さの特性

 

まず、将棋ソフトはポカと呼ばれるようなミスをしません。読みの範囲内はかなり正確に判断できますから、三手目に飛車を取られるとか、短手数の頓死とかは起こりません。

また、終盤が非常に強いです。コンピューターは計算機ですから、詰みという明快な解答が出せる局面は得意領域です。それに、終盤になっても疲れたり、動揺したりしないので、対局開始時と同じパフォーマンスを発揮できるのが大きいです。

人間の場合10時間以上戦い抜いた後に難解な終盤が待ち受けていることも多く、単純なミスが生じることもあります。ですが対局者の疲労や少ない持ち時間を考えれば、棋士が誤るのも仕方のない話です。(羽生名人でも、一手頓死を指したことがあります)

もともと、人間同士の勝負の場合は「ミスありき」だと表現すればいいでしょうか。

棋士は「対人間のプロ」ですから強さの性質や読みのアプローチも違うソフトに戸惑うことも多く、電王戦で勝利した方々はソフトに慣れた若手が多いという印象です。

(阿部光瑠六段、豊島将之七段、斎藤慎太郎六段、永瀬拓矢六段、阿久津主税八段)

 

現在最強とされるPonanzaは将棋倶楽部24(早指し)で69連勝、レートが3455点となりました。恐ろしいほど強いです。

 

ただ念のため、「ソフトが、全ての局面において最善を指せているわけではない」ことは書いておきます。

 

 

 

・将棋ソフトの弱点

 

ソフトは読める範囲内では非常に強いのですけれど、読みの外にある変化(かなり先のこと)が分かりません。ですから、電王戦第5局の△2八角のような手を打ってしまう場合があります。

 

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有名な筋なのですが、▲1六香以下、角が取られてしまいます。しかし取られるのは20手近く先になるので想定できず、打ってしまうわけです。(現在はこの局面で打たないよう改良されているようです)

 

また、長期的な手の善悪が分からないと壁銀のような形を軽視することがあります。

電王戦決勝のponanza―nozomi戦では、評価値の上ではnozomiの逆転負けを喫したのですけれど、後手のnozomiが壁銀で、逆転が起こりやすい状況だったと言えそうです。

 

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(後手優勢の判断でしたが右側の壁銀がひどく、後に逆転します)

 

もう一点は、プログラムミスですね。作るのは人間ですから、欠陥が見つかることもあります。Selene―永瀬戦で角不成が認識できず敗北したのは記憶に新しいです。

ただ、これは修正すればいい話ですからそこまで大きな問題ではないですね。

 

まとめると、将棋ソフトの特徴はこんな感じです。

・単純なミスをしない

・疲れない、詰みを読むのは非常に正確

・長期的な視点に弱い部分がある(水平線効果)

 

 

クラスタ接続について

 

囲碁や将棋ソフトには「クラスタ接続」というものがあります。単純に言うと、複数のコンピューターをつなげて、性能の向上を図るものです。

…これが勝負において妥当か否かは意見の分かれるところで、コンピューターさえあれば、理論上はいくらでも強くできます。囲碁ではCPUの数1200個以上で勝負しているそうで、将棋でもGPS将棋が700台を超える接続で強さを発揮しました。

ただ、全てにおいてプラスになるわけではありません。GPS将棋は第23回コンピューター世界選手権にも出場していますが、クラスタ接続に問題が生じて敗北し、優勝を逃しています。(詰みを読み切ったはずのコンピューターの不具合です)

今の電王戦では対局規定で制限をしていますが、これについては規定で決めるしかなさそうです。

 

 

囲碁のソフトと人工知能

 

囲碁の局面数は将棋よりも更に大きいことは触れましたが、コンピューターからするとかなり難しい課題とみられていました。着実に力をつけてプロを脅かす…ことにはなっていなかったんです。

2016年1月、アメリカの大企業Google傘下の企業が囲碁棋士に互先で勝利したことを発表し、衝撃が走ります。そして3月、トッププロであるイセドル九段に勝利。私がこの文章を書くきっかけもこれですね。

この囲碁ソフト「アルファ碁」は「深層学習(ディープラーニング)」という技術を用いています。人間の脳神経を模した構造で…と、専門的すぎる内容なのですけれど、かなり高次な機械学習です。

Googleはこの手法で画像認識や音声認識に活用していましたが、囲碁にも応用させることに成功します。そして、今回の勝利があるわけです。

…ですけど、余りに唐突な話で開示されている情報や実戦例も少なく、どれだけ強いのか、ムラはないのか等細かなことは分からないのが現状です。

第4局では、不利とみたアルファ碁が悪手を連発し、敗北していますから全てにおいて人間を上回っているわけではなさそうです。

 

囲碁も将棋も、棋士がいたからこそソフトが強くなってきた面はあります。

 

 

人工知能とは何なのか

 

今回のアルファ碁の勝利で「人工知能」という語が多用されています。

では、「人工知能」とは何なのでしょうか?

…これ、具体的に決めることができないんですね。まず「知性とは何なのか」を定義することが難しいので。機械における「知性」を明快に証明する手段はないんです。

ただ、「ディープラーニング」を使用したソフトが、これまでの命令をそのまま忠実に遂行するソフトからは一線を画しているとは言えるでしょう。

まだ「囲碁で勝負できる」段階で研究中ですから、これから他の分野に応用されていくにつれて分かってくることだと思います。

 

研究するのにも莫大なコストや優秀な人材を必要とするので、研究できるところが少ないのも現実です。…難しいところですね。

 

 

・さいごに

 

これからもコンピューターは進化していきますけれど、あくまでソフトは道具です。どう使うか次第なんですね。

現に将棋ではソフトの発想を活かした攻め方や考え方も広まり、プラスに働いた面は非常に大きいです。

ただ、ソフト指しや評価値を示しての棋士批判など、「使う人間の問題」は依然として存在します。

どんなにすばらしい道具でも、使い方によっては毒にも薬にもなります。

 

一連のソフトとの戦いをみていると、囲碁や将棋はとても深く、難しく、魅力的なものだと再認識できましたし、そこに人生を傾ける棋士はの姿は美しいと思いました。

 コンピューターが知性に近づこうとするのもすごい話ですし、1200台を超えるコンピューターに一人の人間の頭脳が勝利することも、称賛に値すると思います。

 

 

 

これは私が調べたことや理解をまとめたものですし、いろいろな見方がある話ですので意見も様々だと思います。気になる方は、自分で調べてみることをお勧めします。

大事なことは、「何だかよく分からないもの」で済ませて断片的な情報に踊らされるのでなく、自分なりに理解して、判断をすることです。

この記事が、その一助になればうれしいです。

 

 

 

そろそろ、時間ですので失礼いたします。次の予定は…タブレットにメモしてありますので。

……あっ!………………。

 

 

 

バッテリーが切れたみたいです。

 

 

(了)

 

参考対局

第3回電王戦第5局 阿久津ーAWAKE戦

第3回電王トーナメント決勝 Ponanzaーnozomi戦

 

 

将棋ソフトの評価値について、非常に参考になるお話です。興味がありましたらご覧ください。

盤上のシンデレラ ~双葉杏は座らない~ 第7局 ‐ ニコニコ動画:GINZA