とある事務所の将棋紀行

将棋の好きなアイドルが好き勝手に語るみたいです。

ウサミン星の矢倉戦  先手矢倉の可能性

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キャハ♪ ナウいJKアイドル、ナナ、再び登場ですっ!

今日は、再びウサミン星から特別司令を受けて皆さんに解説をすることになりました。よろしくお願いしますっ!

 

今回の内容は…矢倉です!ああ、いや……確かに美波さんの矢倉講義の後ですけど、ナナの矢倉は違いますよ!ウサミン星データベース直送ですっ!

前回、美波ちゃんが触れていましたけど、『矢倉4六銀・3七桂戦法』が最近めっきり指されなくなりまして、先手の作戦の模索が続いているんですね。

それもあって50手先まで同じ局面…ということがほとんどなくなって、新しい構想や、以前の懐かしい戦型が沢山見られるようになったんです。

 

昔、故米長永世棋聖が『矢倉は将棋の純文学』と仰っていたのですけど、

「押したり引いたり、ある意味ネチネチした将棋」

という意味だそうです。昔の矢倉をよく表している言葉だとナナは思います。

…しかし、『4六銀・3七桂戦法』が主流になってからは先手が攻め倒す将棋が増えたので、この意味が通じなくなってしまったんですねぇ。純文学というよりは、定型文でしょうか。

「矢倉は将棋の王道だ」みたいに誤解する人も多いようです。

ですから、今の試行錯誤している段階は、「純文学の復活」とも言えそうです。ナナ的には嬉しかったりするんですよ。

では、先手にどんな作戦があるのでしょうか?ウサミン星のデータベースを使って、紹介していきたいと思います。

「これ面白そう!」って戦型が見つかったらナナは嬉しいのです。キャハ☆


・▲3五歩戦法 

 

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矢倉というのは角の使い方が重要で、王様が囲いに入るにはこれをどかさなければいけません。

で、攻めの姿勢をとりながら角を活かすには、3筋の歩を交換すればいいわけなんです。

それを最短で狙うのがこの▲3五歩戦法なんですね。

ここから△同歩▲同角と進むと、先手が既に作戦勝ち気味なんですよ。

 

・1歩持ちつつ、

・▲3七~3六銀のルートを作り、

・▲4六角で牽制もできる。

 

こうなると、先手が一方的に ポイントをあげることができます。

相矢倉のほとんどは、

「3筋を交換したい先手と、それを阻止する後手」

という構図なんです。覚えておいて損はないですよ。
ウサミン星のデータは歴史に強いんですっ!

とにかく、後手は歩を取らずに△6四角と牽制するのが自然で、先手も▲1八飛と逃げます。銀で守ると、△3六歩で銀が死んじゃいますからから気をつけてくださいね。

初心者にありがちですし、ナナも若いころよくやりました……い、今も若いですけど!

この後、先手は後手の角をいじめ、後手は3筋を逆用して盛り上がります。自玉の上部や中央で戦いが起こりますね。手は広いですけど、こんな感じです。

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(一例)
▲1八飛以下、△5三銀▲6五歩△7三角▲7五歩△同歩▲3四歩△同銀
▲7四歩△5一角▲4六角△9二飛▲6六銀△4五歩▲2八角△4四銀▲7五銀

 

今期の棋聖戦でも指されてますね。(棋聖戦第2局羽生―豊島戦)
勝ったのは後手ですけど、中盤までは互角だったようです。

あと、▲6六歩を指さないで▲3五歩から仕掛ける形を深浦九段がA級順位戦最終局でさしていますねぇ。(結果は後手勝ち)
この仕掛けは25年前、郷田九段によって指されたのが最初だとか。
…なんだか、郷田九段が指したというのは納得できますね。

お互い、玉の囲いは固さではなく厚みで評価するような力戦になるので、好みが分かれるところかもしれません。ナナはこういう将棋大好きなんですけど。

玉頭を制圧するため入玉含みにもなりますから、そういう展開に強い方はオススメかもしれません。

入玉といえば、中原名人の入玉術はすごかったですねぇ…。

 

・▲6五歩早突き型

 

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▲3七銀から▲3五歩の交換を狙うのが普通の指し方ですけど、△6四角の瞬間に動くこともできるんですね。それが▲6五歩です。
つまり、角をすぐに追い返しちゃうんです。…ただ、後手にも△6四歩の反発がありますからゆっくりしてはいられません。

更に▲5五歩~▲5八飛~▲6六銀、そして更に▲4六銀!どうですか、この中央の戦力!

 

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(一例)▲6五歩以下、△4二角▲5五歩△5三銀▲5八飛△4三金右▲5四歩△同銀▲6六銀△5三金▲4六銀

 

『5五の位は天王山』と言いますけど、これほど手厚い攻めもなかなかないですよ!

後手が下手に対応すれば中央から突破を狙うわけです。
それを避けようと中央に戦力を集めて対抗すれば、厚みを築きあげます!
こんな感じですっ!

 

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先手は、▲3七桂~▲2五桂や▲4六角で揺さぶりながら中央も狙う。端が弱いので注意。

 

先手も後手も手の組み合わせが色々ありまして、矢倉を放棄して△4三金左なんて手もあるみたいですねぇ。力戦になりますけど、手厚い将棋の好きな方にはオススメですよ。

 

・加藤流▲3七銀

 

『4六銀・3七桂戦法』の前身みたいな戦型です。銀を4六に出ないで▲1六歩と突いて、後手の出方をみてから方針を決めます。

加藤一二三九段が愛用されていることで有名なんですけど…知ってますよね?
中原―加藤名人戦十番勝負とか…知らない人の方が多い!?えぇ…。

 

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話が逸れてしまいました。先手の基本的な攻め筋は、▲4六銀~▲3七桂の見慣れた形です。これを、いいタイミングで指したいんですね。

図から後手が△7三銀と指せば、そこで▲4六銀です。

こうすると、△4五歩~△4四銀みたいな応援ができないんですよね。

…まあ、それでも△4五歩を突く定跡はあるんですけど。(△6二銀と戻して繰り替える定跡もあります)

△5三銀で守勢に回るなら、雀刺し棒銀で端を狙う…なんてこともできますね。

飛角銀桂香、攻め駒を全て端に集中させるんです。

 

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(次に▲2五桂から殺到する。後手は、△同銀▲同銀△3七角成と端を代償に馬を作る順などがある)

 
端だけなら破れますけど、後手はそれをいなしてどうか…。

今もよく指されている戦型ですし自分の矢倉を崩さず戦えますから、現代将棋とは相性がいいとナナは思います。

 

・▲4六角戦法

 

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正直、後手の△6四角って、絶対に働く手なんですよねぇ…。だったら、先手から先に角を出てしまおう!という戦型です。

半分守勢に回るような手なので実戦例は少ないですけど、後手からの手の作り方も難しいんですねぇ。
千日手は流石に嫌ですから、後手の攻めを牽制しながら攻勢をとる将棋になります。

▲3七桂~▲2五桂と跳ねたり、後手が△7三銀から悠長に組めば加藤流の後手より一手得することもできそうですね。

ただ、後手番と同じように▲5七銀から守勢に回ると、攻めが細くなるので仕掛けにくく、千日手の可能性が出てきます。先手は、打開しなければいけませんから。

先手番でも千日手を苦にしない!…という方は棋士にもいらっしゃいますけど少ないですし…。

最近では、今年度棋聖戦の豊島―羽生戦で指されていますねぇ。後手の対応が秀逸で結果は出ませんでしたけど、可能性を感じる内容でした。

 

・森下システム

 

その名の通り、森下卓九段含めた矢倉党の皆さんで作り上げられた戦法です。銀を4八の地点で保留して、▲6八角で様子をみて、後手の動向で方針を決めます。

 

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(右銀の態度を決めずに、後手の手に対応していく方針。)

 

一時期後手の雀刺しに苦しめられましたけど、先手も対策を見つけて組むことができるようになりました。

▲4八銀をそのままにしておくことで、▲5七銀から自玉を手厚く守れるという利点があります。

ただまぁ…受けに回る展開もありますし、明快に攻める順があまりないので受けが好きな人向けですかねぇ。一時期は将棋界を席巻していたんですけど、3七銀戦法に押されていった印象です。ここ最近は復活気味ですね。今後が楽しみなところです。

 

・脇システム

 

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これまでに触れてきたように、先手矢倉は角の動かし方に屈託するんですよね。

おおざっぱですけど、

 

▲3五角>△6四角=▲4六角>>▲6八角

 

という順に働きに差がでるんです。

例えば、▲6八角と上がった瞬間とかをみてもらえると分かりますけど、後手の角の方が断然働いているんですね。

 

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(後手の△6四角は八方を睨み先手の飛車、銀を牽制しているのに対し、先手の▲6八角は7九の状態とほぼ同じ働き)

 

先手のも将来的に働く角なんですけど、▲6八角自体に意味があまりないんです。玉の入場ルートを作っただけで、将来的に角を動かしたときに、手損になる可能性もあります…。

 

ならば、△6四角に▲4六角と対抗してはどうか、という話になるんですね。これが脇システムです。…懐かしいですねぇ。

組み合って、先手は棒銀に出たり、3筋から攻めたりします。角交換になることも多いので、▲4一角(△6九角)のような矢倉崩しの角打ちの手筋を覚えておく方がいいですね。

今では三浦九段が愛用されていて、本を出されているので有名です。しかし、最近はあまり指されていないんですよね…。

A級順位戦で羽生先生に土をつけた対局は有名ですけど、電王戦でのGPS新手(図)が尾を引いて、更に△5二金のまま保留する指し方もあって…。少しばかり受難の感はありますねぇ。

 

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(左がGPS新手。△7五歩▲同歩△8四銀で、一見細い攻めが繋がってGPSの快勝)

(右が△5二金保留型。▲4一角のキズがなく、角交換すれば△6四~6五歩の攻めがある)

 

今期名人戦第4局では羽生先生が先手で採用していますけど、△5二金保留型になり、攻めが切れて敗勢になってしまいましたし…。

(ただ、最後に勝ったのは羽生先生なんですねぇ…。羽生先生はウサミン星以外の、別の星から来ているのではないかと疑いたくなります)

中盤までは同じ形になることも多く、研究がしやすい形ですね。先手がとにかく攻めたいのならオススメだと思います。

 

・藤井矢倉 (早囲い)

 

ナナは『藤井システム』が将棋界を、四間飛車の覇権を握ったときの衝撃を昨日のことのように覚えています。四間飛車一本で竜王を取り、『一歩竜王』の羽生―藤井戦は名局でした…。

囲いは後回しにして、相手の陣形をみて動く。急戦にも、持久戦にも互角以上に戦える…。まさに、「システム」なんですねぇ。

…あれからかなりの年月が経ちましたけど、藤井先生は矢倉でも新たな戦型を開拓されました。それがこの戦型です。

この藤井矢倉も、『矢倉版 藤井システム』と言ってもいい戦法なんですよ!

元々、矢倉には『早囲い』というものがありました。玉の入城ルートを

▲6九玉~▲6八角~▲7九玉~▲8八玉 とするのではく、金を動かさずに

▲6八玉~▲7八玉~▲8八玉

と入る戦法なんですけど、▲6八角を省略できる分、通常より1手得するんですよね。アイドルは手損を嫌いますけど、手得には敏感なんですっ!

▲6八角と指さずに囲えるのは魅力的なんですけれど、左金が守りに働いていない時間が長いので、後手急戦に弱いという弱点があったんですねぇ。

例えば、米長流急戦矢倉で比較しますと…。

 

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明らかに、玉が危ないですよね?先手の左金が受けに働いていません。

普通に戦ってほぼ互角の勝負なのに、それより危険なわけですから、一度廃れてしまったんですねぇ。

そこに新風を吹き込んだのが藤井九段なんですっ!方針は以下の通りで――

 

・できる限り居玉

・相手の方針をみる

・脇システムとの融合

 

具体的な順としては、先手は、囲いに行くのは一番最後にするんです。飛車先を突いて、角を引いて、ひたすら居玉で待つ。早囲い…という名前が合っているかはさておきですけど。

後手が急戦を選択すれば、▲7八金で普通の形に戻せるんですね。

で、後手が△3一角から囲い合いを選択すれば、早囲いにできるんです。

そして、▲7八玉・▲6八金型に組むのが藤井流。江戸時代に『天野矢倉』と呼ばれていた囲いなんですけど、8筋からの攻めに弱くて廃れていました。しかし!脇システムと融合させた形になると、矢倉崩しの△6九角を打つことができなくなるんです!先手だけの権利になるんですねぇ。

ただし、8筋が弱いので注意も必要です。一長一短ですね。

 

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後の▲4一角~▲6三角成や▲3五歩の攻めがある。一方、後手は△6一角と打てない

 

これがきっかけで早囲いそのものも見直されまして、今期の名人戦王将戦でも早囲いが現れていますね。▲6八飛や▲7八飛といった展開も指されています。ただ、このあたりは序盤の一手一手で大きく変化が変わるので、高段者でないと指しこなしにくいです…。

 

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王将戦郷田―羽生戦。この後▲7五歩から攻めて快勝。

 

藤井矢倉から離れた形も多いですけれど、発想の出発点は藤井九段です。

その後、角交換四間飛車を発展させた藤井先生は、3つの大きな定跡の体系を作り上げたんですっ!普通はありえないことなんですけどねぇ…。ファンが多いのも頷けます。

ナナは矢倉党で居飛車党ですから、藤井システムを相手にするのは大変なんですけど…。愚痴になっちゃいましたね。これだから歳は取りたくない…17歳でも愚痴は言いますっ!



……だいたい、矢倉に組み合う将棋で、先手の手段はこのくらいですねぇ。

『4六銀・3七桂型』が大流行した影響で、他の戦型はここ10年あまり指されていないんです。

…これは他の戦型がダメなのではなくて、プロ棋士は「勝たなくてはいけない」から流行したんですね。

先手は組めば主導権を握って攻めが続く、同じ形になるから研究もできる、その上勝率も良い。勝つためには非常に魅力的な戦型でしたから、指されていったわけです。
ですけど、今は組めなくなってしまいました…。

その間、半分眠っていた形が、今掘り起こされて再検討されているわけです。矢倉独特の力勝負が観られて、ナナは満足しているんですけど。

その眠っている間にも攻めや受けの技術は、指されていた頃より確実に高くなっていますから今後も実戦でいろいろな手が現れるでしょうし、今までの結論がドンドン変わっていくことだってあり得ます。

現に、△4五歩反発型も、20年前に出た「先手良し」の結論が出ていたのが覆って今があるんです。

未知の領域が多く、変化が限りないのが矢倉ですから、可能性も無限大なんですっ!

先手番の場合、何か一つ好きな形を選んで指してみるといいと思いますよ。

後手も、今説明した戦型全部に対して適切に応対するのは大変ですし…、楽しんで指す分にはどの戦型もいいと思います。

それに、負けるときっていうのは、「戦型選択」で負けるわけではなくて「中終盤のミス」でによることがほとんどですから…。

研究勝ちを狙うだけが将棋じゃないですし、むしろ膨大な変化の山の中をさまよう将棋の方が、昔は当たり前だったんです。その分、読みや大局観を養うには、矢倉はもってこいだと思います。

楽しく、将棋を指して上達していく。ナナが少しでもその手助けになれば、これ以上嬉しいことはないのです。

 

というわけで、ナナの矢倉解説を終わります。ありがとうございましたっ!

ウーサミン♪

 

 

 

……あ、ちょっと!カメラ寄せすぎないで下さい!今日はメイクそんなにしてないんですから!

ナナが好きなのは矢倉ですけど、流石にいくつも戦型を解説するのは大変なんですよ…。

特に10年以上前の戦型になると、ナナも大変で…ウサミン星のデータベースを探し回りました。ですけど、分からない変化も多いです。これに加えて急戦矢倉もありますからね、解説できませんでしたけど。将棋って、難しいですねぇ……。

ただ、こうやって調べていると本当に懐かしくて…。米長先生や中原先生の矢倉も素晴らしいんですよ。飛車先不突き矢倉は田中寅彦九段の手ですし、何だったら急戦も沢山ありました。時代は移り変わりますねぇ…。

あ、もう次のお仕事の時間ですか。それでは、ありがとうございました。

さよなら、さよなら、さよなら~。

 

(了)

 

 

※菜々さんは、永遠の17歳です。(P)

 

 

 

 

参考対局

・▲3五歩戦法

第86期棋聖戦第2局 羽生―豊島戦

第74期A級順位戦  深浦―広瀬戦

 

加藤流

第65期B級1組順位戦 渡辺―深浦戦

 

・▲4六角戦法

第86期棋聖戦第1局  豊島―羽生戦

 

・脇システム

第71期A級順位戦   三浦―羽生戦

第2期電王戦5回戦   三浦―GPS

第73期名人戦第4局  羽生―行方戦

 

 

・藤井矢倉(早囲い)

第58期王座戦第2局  藤井―羽生戦

第73期名人戦第1局  行方―羽生戦

第65期王将戦第1局  郷田―羽生戦

 

……羽生先生の対局は多いですねぇ(ナナ)

 

 

参考(になる)書籍

羽生の頭脳文庫本3巻(単行本5,6巻)

佐藤康光の矢倉