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とある事務所の将棋紀行

将棋の好きなアイドルが好き勝手に語るみたいです。

ラブライカの将棋アラカルト~玉も戦力の一つ?~

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美波 

じゃあ、今日の講義を始めようかアーニャちゃん。

アナスタシア

ダー、今日のレクツゥィア…講義、何をするのか楽しみですね。

また、ミナミに攻められるのですか?

美波

…確かにこれまでは矢倉や角換わりの攻め方、受け方の解説もしてきたけど、今日はちょっと趣向を変えてみようと思うの。

アナスタシア

シト?どういうことですか?

美波

前回まで教えてきたような定跡も大切なんだけど、自分の読みや大局観を優先して指さなきゃいけないこともあるのね。今回は、そんな「セオリーにない手」を紹介したいと思います。

アナスタシア

パニャートナ、なるほど、例えば『パンツを脱ぐ』とかですね?

美波

ちょ、ちょっとアーニャちゃん!女の子がそんなこと言ったらダメだよ!

…確かに、そういう手が好手になることもあるけど…。

アナスタシア

ふふっ、ちょっとしたジョークです。ミナミは、まじめですね。

美波

…もう。ふざけすぎたら怒るからね?

アナスタシア

ミナミは怒ってもカワイイですから、それでもいいですね。

美波

…………アーニャちゃんったら。

この話はおしまい。講義を続けます!

アーニャちゃんが言った手もセオリーにない手だけど、今回は「玉の使い方」で意外な一手を紹介していこうと思います。

アナスタシア

キング…王様、ですか?あまり、動かさない駒ではないのですか?

美波

そうだね。でも、棋士によっては「玉も戦力の一つ」みたいな戦い方をする人もいるのよ。

アナスタシア

アー、チェスも、カローリ…キングは戦力ですね。オープニング…序盤はキングをキャスリング…囲いますけど、エンドゲーム…終盤には、キングも戦場に出ます。キングと、ダーマ…クイーン1枚ずつあればチェックメイト…詰ませられますね。

美波

うーん…アーニャちゃん、ロシア語とチェス用語、日本語をごちゃまぜにするとわけが分からなくなっちゃうから、どれかに絞ろう?

アナスタシア

パニマーユ、わかりました。でも、将棋は日本語で、チェス用語は英語で、生まれはロシア語…。むずかしいですね。

それに、ランコが教えてくれた熊本弁もあります。

美波

蘭子ちゃんの言葉は…別にしておこうね。

アナスタシア

分かりましたね。…でも、アーニャ、疑問があります。

チェスは、取った駒は使えません。だから、序盤に守っていたキングが、終盤に出て戦力になりますね。…将棋は、取った駒を使えますから、玉はずっとアパースノスチ…危険なはずです。戦いに出したら、すぐに詰まされてしまうのではないですか?

美波

アーニャちゃんの言う通り危険だし、「玉は安全に囲うもの」って考え方の方が普通だよ。

でも、棋士によっては独特な使い方をする人もいるの。

論より証拠ということで、実際に見てみようか。

アナスタシア

ダー、気になりますね。

 

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美波

これは王将戦 佐藤康―久保戦ね。後手の久保九段のゴキゲン中飛車で、佐藤九段が超速で迎え撃っている局面。中でも後手は『菅井流』っていう激しい変化に入って、斬り合ってるの。

アナスタシア

激しいですね。どう指せばいいのか、分かりません。

美波

うーん、要点をまとめると、

(1)先手は3歩得

(2)ただ、後手は次の△5六飛から歩を取り返して捌けば戦える

(3)手番は先手だから、なんとか局面を収めたい

 

こんな感じかな。でも、先手の手段も難しくて…。前例は▲2二角から攻め合っているけれど上手くいってなくて、久保さんはこの展開には自信を持っていたみたい。

アナスタシア

ンー、どうすればいいのか、分からないですね。

美波

こういう乱戦に、中飛車はとても強いからね。戦力が中央に集まるのは大きいかな。

アナスタシア

らんせん?ランコが戦いますか?

美波

えっと…乱れた戦いって書いて乱戦ね。駒が入り乱れて、玉も薄くて…。

アナスタシア

よいではないか~よいではないか~♪

美波

それで乱れているのは衣装!私がやらされたけど…。

アナスタシア

ミナミ、脱がされてもキレイでしたね。

美波

…とにかく!ここで佐藤九段が、すごい手を指したのね。それが…

 

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▲5七玉!

…意味としては、△5六飛を防いだ手なんだけど…どう?アーニャちゃん。

 

アナスタシア

ダーティシトー!…信じられません。こんな手があるんですか?

美波

指された当時も、控室の棋士や中継を観ているファン、みんなが驚愕した…そんな一手なの。

この後の指し回しも素晴らしくて、この対局に勝利してるのね

アナスタシア

ズドーラヴァ!すごいですね。

美波

この後、研究されて後手の対策と「後手良し」の結論が出たのだけど、それよりもこの▲5七玉をタイトル戦で指して、まとめ上げるバランス感覚を称賛するべきかな。

佐藤九段は特に、こういう玉の使い方が上手い棋士なの。

もう少し、見てみようか。

アナスタシア

ダー♪どんな手があるんでしょう、楽しみです。

 

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美波

今度は王将戦 佐藤康―渡辺戦ね。戦型は横歩取りで、後手が端を攻めているところ。

渡辺さんはこういう細い攻めをつなげるのがとても上手くて、現にこの攻めも感想戦で「うるさいと思っていた」と本人が言っているのね。

アナスタシア

▲8五歩と、桂馬を取ってはいけないのですか?

美波

それは、△同飛▲8六歩△9五飛で…端攻めは受からないの。

…どう指したと思う?アーニャちゃん。

アナスタシア

ンー、普通なら、▲7九玉で逃げ出しますね。ビグズォ…逃走です。ですが、それで良くなると思えませんね。…逃げない、ですよね?

美波

うん。そうじゃなくて、指したのは…

 

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▲8七玉!そして6手後に▲8六玉!

…つまり、先手の狙いは入玉にあるのね!

 

アナスタシア

…玉だけで、ですか?プラーウダ リー エータ?

美波

普通はありえないというか…。入玉って、横や下から追いかけられたときに、逃げながら上部を目指すものなのね。

でも、本局は渡辺さんの飛車が待ち構えている所に突っ込んでいったの。敵陣に味方の駒もいないのに…。

アナスタシア

苦し紛れ…ではないのですか?

美波

ううん。元々、後手が端を攻めるのは分かってたことなのね。そこに▲8八玉と入城して受けて立ってるから、最初からの構想みたいなの。

アナスタシア

ミナミが、単身でアーニャに向かって突撃…ですね。

美波

…私が解説しやすいように、玉を動かしているだけだからね?

…実際、この後入玉を確定させて飛車を取ってしまって、ここで渡辺さんが投了。

 

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右側の駒が全く動いていないのに、いつの間にか玉の動きだけで勝ちにしちゃったの。

結果論だけど、端攻めそのものが疑問だったみたい。

でも、これを指せるのは棋士でも佐藤九段だけだと思う。

アナスタシア

ダー、…感覚が違いますね。

美波

もう一つ、象徴的な手を挙げると、棋聖戦の羽生―佐藤戦かな。

 

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後手の佐藤九段の一手損角換わりから、右辺で戦いに。先手の2四歩、3四歩の垂れ歩に対して、後手は馬を作った局面ね。

こういうときに、玉が戦場から遠い…というのがこの戦型の主張のはずなんだけど…。

 

アナスタシア

いざとなったら、玉をスリェーヴァ…左に逃げられますね。

美波

ここで指したのが…△4二玉!

 

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渡辺さんが、控室で「1秒も考えなかった手だよー!」と叫んだらしいのだけど…ほとんどの人が、そう思ったんじゃないかな。

アナスタシア

玉が戦場に近づくのですか?シトー?

美波

佐藤九段曰く、「ここで金に紐をつけておかないと、後で戦えないと思った」ということらしいのだけど…。

これってつまり、玉は「守るもの」ではなくて、「戦力の一つ」って考え方が具現化したような手なのね。

これで最終的に羽生さんに勝利するの…。恐ろしいよね。

アナスタシア

ニェート…理解、できないです。

美波

理解できないから、こういう玉の使い方が流行しないのだと思う。

長らく升田賞を受賞しなかった理由が「誰も真似しないから」というものだから、それだけ独特な構想を描く人なのね。

…でも、それで勝てるのだから将棋は難しいし、もしかしたら私たちの常識の方が間違っていることもあるのかもしれない。

アナスタシア

ンー、難しいですね。

美波

難しいからこそ、未だに人を惹きつけているのだと思うよ。

分からない…そんな局面を最後に一つ紹介しようかな。

これは、これまでの玉の使い方とは違うのだけれど…。

 

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A級順位戦、三浦―羽生戦 の終盤ね。相矢倉だったけど後手が上手く反撃して、先手は必至という局面。▲8七銀と受けても、△9六歩から詰むのね。

アナスタシア

パニャートナ、では、後手勝ちなのですか?

美波

それが、簡単じゃないの。ここから先手は▲3一飛と王手をかけて追いかけるのね。

後手も逃げ続けてこんな局面。

 

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後手に詰みはないのだけど…。

ここで、▲8七銀と手を戻したの。これで…受かってるのね。

 

アナスタシア

シトー?意味がよく分かりません。

美波

えっと…後手の玉が9筋にいるでしょう?これで、△9六歩から詰まなくなったの。香車が効いていないから。

アナスタシア

インチェレースナ!…面白いですね。王手を続けたことで、先手玉が安全になるんですか。

美波

そう。でも、ここからが本当に難しくて…。

互いの玉が近いから、王手をされて逃げた手が、相手の玉の王手になる『逆王手』の手が沢山あるのね。

一手一手解説していたら終わらないから省略するけど、クライマックスがこの局面。

 

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ここで、△7七金から簡単に詰みそうなんだけど…。

▲8六玉が逆王手!これで攻守が入れ替わってしまうの。それがなければ、△8七馬までの詰みなんだけどね。

 

アナスタシア

アー、…複雑すぎますね。

美波

ここまで難解なことはめったにないけど、互いの玉が近いとこういう普段ない筋があるってことは覚えておいてね。

…この筋を、1分将棋で読み切って勝利した三浦九段がすごいとしか言いようがないかな。

アナスタシア

将棋も、玉は攻めや守りに使えるのですね。アーニャ、勉強になりました。

…でも、使いこなすのはニーギャスネスト…難しいですね。

美波

そうだね。読みに死角があったりすると一気に負けちゃうから…。

アナスタシア

しかく?ミナミ、また勉強してますか?それとも、さんかく、しかく?

美波

資格じゃなくて、死角ね。気づかないところから攻められて、危ないこともあるってことね。

最初は玉の安全を優先した方がいいと思うけど、玉の安全度が分かるようになると、こういう使い方もできるって感じかな。

…ということで、今回の講座は終わりにします。ありがとうございました。

難しいけれど、色んな指し方があるってことに興味を持ってくれたら嬉しいかな。



アナスタシア

スパスィーバ!ありがとうございました、ですね。

そういえば、最後のあいさつをランコに教えてもらいました。

美波

蘭子ちゃんが?「ありがとうございました」じゃなくて?

アナスタシア

ダー、こう…左手を前に出して…

 

 

 

『闇に飲まれよ!』

 

 

 

美波

…あー、アーニャちゃん、それは、蘭子ちゃんと対局するときだけにしようね…。

 

 

 

(了)

 

参考対局

 

第61期王将戦第1局 佐藤康―久保戦

第62期王将戦第3局 佐藤康―渡辺戦

第79期棋聖戦第1局 羽生―佐藤康戦

第71期A級順位戦  三浦―羽生戦