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とある事務所の将棋紀行

将棋の好きなアイドルが好き勝手に語るみたいです。

安部菜々の徒然観戦 ~現代将棋と羽生世代~

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この15年、将棋界を制覇してきた『羽生世代』。そしてその『ちょっと下の世代』。さらに、20代半ばの『渡辺竜王を中心とする世代』そしてそれよりも『もっと若い世代』。

この『4つの世代』が、これからの10年、熾烈な争いを繰り広げることになるのだ。

(第80期棋聖戦第1局観戦記より)

 

この文が書かれたのが2009年6月。

そして7年後の今、その『戦国時代』が激しさを増しています。

 

大きな流れでいえば、『羽生世代同士』のタイトル戦から『羽生世代 対 下の世代』のタイトル戦が増えました。
でも、タイトルを手にする人は渡辺竜王をはじめ限られていて、羽生善治その人の壁がずっと立ちはだかっている…それがここ数年の流れでした。
若手の挑戦を幾度となく退け、防衛を続けるその姿は…同じ人間とは思えないくらいで。

大きく動いたのは、今年の春です。佐藤天彦八段が名人を奪取したのは記憶に新しいですね。これで、羽生世代以降の棋士が初めて名人を獲りました。

3度目のタイトル戦、後手横歩の勝率、周囲の評価…それだけ充実していましたし、頷ける結果ではあります。 将棋界全体でみれば、有望な若手が脚光を浴びるのは良いことですし。

ですけど、やはり衝撃は大きなものでした。20年以上続いた『羽生世代』の時代がついに動くのか…いろいろな反応がありました。 実際はタイトル一つにおいての話なので、名人戦だけで結論が出るものではないですけど。

 

そんな中迎えた棋聖戦は、佐藤八段よりも若い永瀬六段が挑戦しています。

そして…第3局までで永瀬六段の2勝1敗。

特に第1局は千日手を挟んでの勝利。第3局は受けに徹しての逆転と、永瀬さんらしい勝利で奪取まであと1勝まで迫りました。

羽生棋聖からすればカド番であり、いくぶん不本意な内容といえるでしょう。

とにかく、本局に負ければ棋聖も失冠、タイトル戦3連敗(王将戦含め)になってしまいます。 王位戦王座戦もありますから、先への不安含めていろいろと周囲がざわついた中での対局になりました。

 

 

棋聖戦 第86期棋聖戦 第4局 (7月13日)
永瀬六段―羽生棋聖 戦

 

事務所の戦型予想ではバラバラでしたけれど「後手の羽生棋聖がどう動くか」による、という点は一致していました。

永瀬六段からすれば自分のペースでぶつかっていくのがベストでしょうし、羽生棋聖が変化するならときおり採用する後手一手損角換わりや振り飛車はあり得るかもしれない…という意見もありましたね。

 

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▲7六歩   △8四歩   ▲6八銀   △3四歩   ▲7七銀   △6二銀
▲5六歩   △5四歩   ▲4八銀   △4二銀   ▲5八金右 △3二金
▲6六歩   △4一玉   ▲6七金

 

さて、本局の出だしは順当な矢倉になりました。五手目▲7七銀は重要なところで、▲6六歩ですと居角左美濃への対策を考えなければいけません。

永瀬六段からすれば、「▲7七銀から早囲いにすれば損はない」という姿勢なのでしょう。
ただこのまま囲い合いになるのは永瀬六段の研究の範疇のはずですから、少し先の展開を不安視している子もいました。

この先、関係なくなっちゃいましたけれど。

 

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 △5三銀右

急戦矢倉の意思表示です。
……みんな、どよめきました。久しぶりの急戦矢倉…しかも、あまりに古い形でしたから。

ナナは頭の片隅で、もしかしたらあるかも…と思ったのですけれど。
というのも、羽生棋聖は急戦矢倉、かなり得意にしてるのですね。

朝日杯決勝森内―羽生 戦でもかなり懐かしい形になりましたし、タイトル戦でも何度も採用しています。

冒頭の観戦記が書かれた対局も、羽生名人(当時)は4勝7敗で不調がささやかれていて、その中で急戦矢倉を指しています。(結果は勝ち)
後手番で主導権を握るならば、あり得る選択なんですねぇ。

実は棋聖戦でこういった懐かしい戦型を指すことは多くて、

深浦―羽生戦ではカニカニ銀を
渡辺―羽生戦では相横歩取りを採用しています。(どれも後手勝ち)

こういった、古い形にも鉱脈は眠っている…というのが羽生棋聖のスタンスのようです。

 

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▲2六歩   △5五歩 ▲同 歩   △同 角   ▲2五歩   △5四銀  
▲2四歩   △同 歩 ▲同 飛   △2三歩   ▲2八飛   △7四歩  
▲5七銀   △2二角

△5五歩から動きましたが…△2二角と引く形は見覚えがないといいますか、覚えてないといいますか…。『中原流急戦』と呼ばれていた囲いです。

ナナの記憶には限界があるので、継ぎ盤で検討していた美波ちゃんに聞いてみることにしました。

「この形は…私も見たことがないですけど、そもそも5手目▲7七銀が長らく少数派でしたから仕方がない部分はありますね。
△5三銀右―△5五歩の仕掛けは阿久津流を思い出させますけど、△7四歩を突いていないので全く違う展開になるんです。
というのも、▲6六歩型ですと銀は6八にいるので、△7四歩―△8五歩を決める必要がありました。 でも、本局は既に▲7七銀を上がっていますから、△7四歩を突く必要がないです。早囲いから角を使われたときに、飛車のコビンが空いて損な面もありますから後回しにしたい手なので」(美波

もしかしたら、『変わりゆく現代将棋』にあるかもしれません、と付け加えてくれました。

5手目▲7七銀と▲6六歩の比較。

何でもないような分岐点が、場合によってはとても大きな違いを生む…。

これは、羽生棋聖自身が調べ上げて本にしています。『変わりゆく現代将棋』。七冠達成後に将棋世界で連載された内容で、当時の後手急戦がかなりの量、高い精度で書かれています。

本棚を探して久しぶりに開いてみたのですけど…読みにくいです。
局面と手順、解説はあるのですが内容がかなり濃くて専門的なので、読み解くのに一苦労します。

▲7七銀の項に、この筋は載っていました。先手が早囲い調なので金の位置が違いますけど、おそらく▲7八金と上がって合流するだろう…というのがナナや他の子たちの見解でした。

後手急戦で上から攻められていますから、早囲いにいく利はありません。

 

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▲7八金   △5三銀   ▲6九玉   △6四歩   ▲4六銀   △4四銀
▲7九玉   △5二金   ▲6八銀   △6三金   ▲5六歩   △8五歩
▲7七角   △7三桂   ▲3六歩   △1四歩   ▲1六歩   △9四歩
▲9六歩   △6五歩   ▲5七銀上 △5五歩   ▲3七桂   △3五歩

 

さて、本当に▲7八金で合流しました。互いに力を溜めて、全面戦争へと突入していきます。
『歩が3枚ぶつかれば初段』という格言はありますけれど、棋士の戦いでここまで駒がぶつかり合うのはなかなか珍しいです。

ラグビーの強力FW同士が火花を散らしているのを連想させる』
と解説されています。……茜ちゃんが好きそうです。

この局面は前例があって、1991年8月の泉―中川 戦と同じなのだとか。おそらく、本もそれを前提に書かれたのでしょう。

△3五歩は隙になりかねない手ですけれど、後手から一方的に攻めても勝ち切るのは容易ではありません。

先手の動きを誘って、攻勢に出るのが良いという判断ですね。

従来の後手急戦は、こういった細かなやり取りが勝敗を分けるものなのです。

 

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 ▲5五歩   △同銀直   ▲同 銀   △同 銀 

銀を交換して、前例の▲5三歩と打つか、▲3四銀と打つか、▲4五桂と跳ねるか…ここはかなり悩ましいところです。

▲5三歩△5一歩の応酬が、先手にとって得なのかどうか…というところですけれど、はっきり言えば分かりません。

狭くなったとも取れますが、後に桂馬がいなくなると後手玉は5三へ逃げ出すこともできますし、△5一歩の分だけ堅いとみることもできます。

 

▲3四銀は、急戦の弱点である角頭を狙った一手ですけれど以下△3七歩成が先手で入るので難しいようですね。

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▲4五桂 △3四銀

というわけで、単に▲4五桂。ここで、前例を離れました。とはいえ、前例が25年前ですから正確に記憶して指していたようには感じませんでしたね。

永瀬六段の消費時間は既に2時間半を超え、かなり慎重な印象を受けます。

前例の対局のとき、永瀬さんは生まれていないので…仕方ないところかもしれません。

 

「戦型選択で、1本取ったかもしれませんよ」

美波ちゃんの向かいに座って検討していたまゆちゃんが、口を開きました。

「どういうことですか?」(ナナ

「この春以降の将棋は、横歩取りを中心に若手棋士が研究で1歩先に出る将棋が多かったです。消費時間も少なめにして、終盤に時間を残して逃げ切る…という構図ができていました。早囲いも、第1局の指し直し局で永瀬さんの研究が刺さっていますからね。 それを避けつつ、難しい局面に持ち込んだのは大きいですよ。
言うなれば、これまでは若手の領域で、本局は羽生さんの領域です…うふふ♪」(まゆ

△3四銀は「敵の打ちたいところに打て」の1手で、▲3四銀を防ぎつつ桂取りも見せています。

「やっぱり打ちたいですけどねぇ」(ナナ

美波ちゃんとまゆちゃんの継ぎ盤に▲2四歩を示します。

「後手急戦はそこが急所ですか」(美波

「ええ、ナナも▲6六歩型の急戦は先後どちらもけっこう経験がありますけど、ここ以外を攻めても後手玉はかなり耐久力があるんですよねぇ」(ナナ

「……急戦って、そんなに経験あるものですかぁ?」(まゆ

「え?▲6六歩型でも、急戦はナナの小さい頃はよくやって……米長流とか」(ナナ

「いえ、私もそこまで経験はないです…」(美波

「あ……い、いえ、ソフトの指定局面戦ですっ!あ、アハハ…」(ナナ

「何のソフトですか…?」(まゆ

「え?…………AI将棋?」(ナナ

……このやり取りはオフレコでお願します!

▲2四歩以下は、△同歩▲同飛(銀取り)▲4五銀△2三銀と攻めることになりますけれど、△同銀も△4四角もありそうで決まっている局面ではなさそう、というのが検討の判断でした。

「永瀬さんの棋風ではないですよね…」(まゆ

という雰囲気です。先手は桂馬をいじめられると忙しいので良くしに動きたいのですけど、具体的な手段が難しい…不思議な局面ですね。

そして、羽生棋聖らしさを感じる展開でもあります。

 

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▲4六歩 △4五銀

先手は、攻めずに▲4六歩と一手受けに回りました。
桂馬にヒモをつけて、次こそ▲2四歩ということでしょう。

そして後手は…△4五銀。△4四歩から銀を取る手も検討されていただけに、駒損する変化に突入するのは予想外でした。

「銀で取りますか!」
ナナも、思わず声を上げてしまいました。もう、ゆっくりできなくなります。
△4五同歩。手番は後手ですけれど、ここで攻め切らなければ薄い後手陣は一瞬で崩れます。
事務所の空気も、一気に引き締まりました。


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▲同 歩   △6六歩   ▲6四歩   △同 金   ▲6六銀   △同 銀  
▲同 金   △6五桂打▲8八角   △8六歩

△6六歩で銀を交換しよう…というところに▲6四歩。技の応酬です。

△6七歩成で攻め合えそうですけれど、▲6三歩成△7八と▲同飛となると、後手の玉型がたたってきます。

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(後手玉は壁形で薄く、逆転していそうです)

△同金と取るのが冷静ですね。▲5三銀のような隙はできますけれど、銀だけでは手ができません。

そして、重いようでも△6五桂打。▲7三銀のようなキズがあるので、桂馬は動かさない方がいいです。△8八角と引くしかないですけれど、△8六歩から先手の角頭が狙われてしまいました。

ただ、後手陣もバラバラで明快に優勢…とは言いにくいでしょうか?

「これ…後手が理想的な展開じゃないですか?」(美波

かなり玉は薄いですけど…それでも?」(まゆ

後手玉も危険なだけに、美波ちゃんの『理想的』の判断は意外でした。

「後手急戦は受け止めることが基本的に無理で、先手は攻め合いで勝つ必要があります。でも、後手の角頭に嫌味がなくて攻めの手掛かりがありません。後手が攻めに専念できるのは大きいですね」(美波

「金銀で堅いだけが、終盤の速度じゃないんですねぇ」(ナナ

「でも、ここで決めないと簡単に逆転しますから。羽生さんは時間を使いますよ」(まゆ

しばし手を止める羽生棋聖

……考えがいがありますねぇ。

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▲同 歩   △8七歩   ▲同 金   △5七桂成


△8七歩▲同金と壁形にしてから△5七桂成。玉に迫りつつ、△6五歩の金取りを見せています。

中継コメントでは▲5三銀△6五歩▲5六金!という鬼手が発見されたらしく、読んだときは一瞬背筋がヒヤリとしました。

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(8八の角を交換して、玉を広くする狙いです)

「角を捌かせると金冠で先手玉の耐久力が跳ね上がりますね」(美波

「金を渡しても、速度が変わればいい…難しいです」(まゆ

2人の手がしばらく止まります。でも、ナナは少し気になった手があって…

「……これ、金をかわすとどうなるのでしょう?」(ナナ

「「え?」」

「▲5三銀に、金をかわすんです。△6三…じゃなくて△5四金ですか。先手に攻めを催促したら、どうなりますかね…」(ナナ

「受けに回るんですか!?この薄い玉で?」(美波

すぐさま盤に並べられます。

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▲5三銀 △5四金 ▲5二銀打 △3一玉 ▲4二銀打 △同金
▲同銀成 △同玉

(先手は飛車が成ると△6八銀以下詰み。先手が動くと反動で負けなんです)


「……先手の攻めが切れてますねぇ。そして、先手玉は受けがなくなっていますよ」(まゆ

「銀3枚で手ができないんですか…。怖くて、この順は思いつかないです」(美波

「一気に攻め倒すのは明快ですけれど…現代的な考えといえばいいんでしょうか。この将棋はたぶん、そういう感覚が通じない戦いだと思うんです」(ナナ

「そうですね…。私たちが、最新型の将棋に慣れ過ぎてしまったのかもしれません」(美波

忍者銀とかも、形勢判断が難しいですし、とつけ加えていました。

しかし、▲5三銀が無理となると指す手が難しいです。検討も止まり、次の手を待つことになりました。

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▲4六銀

この手には事務所でも叫び声が上がりましたねぇ。

攻めが上手くいかないので、受けて切らしてしまおう…という手です。

「永瀬流…ですか。これで勝ちあがってきた人ですからね」(美波

「ですけど、羽生さんは時間があります。間違えて逆転…が起こりにくいと思うんですけど」(まゆ

△5六歩や△5八飛といった手を調べてみますが、明快に決まっている感じではありません。

「ここが最後の長考になりますね。ならないと、それは混戦ということです」(まゆ



10分考えて、△6八銀。最短、最速の攻めです。

ただ、飛車と精算した局面はすっきりしている上に後手陣に守備駒が多く、寄っているのか懐疑的な声もありました。

無理攻めで切れているのではいか…嫌な汗が背中を流れました。

「催促されたのに、最速で攻めたのね…ふふっ」(楓)

ふらっと楓さんが来てダジャレを言って去っていきました。…風みたいな人ですねぇ。

 

「まぁ、普通は△4八飛ですよね」(美波)

王手銀取りですから、受ける必要があります。候補手としては、▲5七玉と▲4八桂。
▲5七玉が一番強い手で、銀取りを受けつつ飛車取りも見せています。
ここで飛車を逃げれば、手番を得て受けきりを目指る…という狙いです。

ただ、▲5七玉には△6六角!という手がありました。
角の効きが4八まで伸びているので、飛車を取れないんですね。

 
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同玉は銀が取れますし、同角は△5八金で詰みます。

問題は▲4八桂のときです。パッと見て、寄せる手が見えないんですね。

ただ、羽生さんの手に迷いはありません。
いろいろと危ない橋を渡っているはずなのに、今日に限っては序盤から不思議な安心感がありました。

 

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△6六角 ▲同角 △6七歩

まで、後手 羽生棋聖の勝ち

 

△6六角。桂合でも、この手が成立しました。同角に△6七歩。
クモの糸のように細い攻めが、切れずに勝利まで繋がりました。

▲5七玉は△6七金以下詰み、▲同玉は△5六金!と最後の戦力まで捨てる手があります。
取ると△5八飛成▲5七銀△5二飛で、動かなかった8二の飛車を活用して詰み上がります。
▲5九玉など、かわして粘る手は△4七飛成が左右挟撃で受けなし。

谷川九段の光速流をほうふつとさせるような寄せでした。

冷却シートを外して、永瀬六段の投了となりました。
事務所のどこからか、ため息に似た音が

「後手に疑問手…ありましたか?」

モニターを眺めながら、美波ちゃんが呟きます。

後手急戦は一手の疑問手が即、負けに繋がります。薄いですからね。
だから避けられてきた部分は大きいです。

でも羽生棋聖はあえて指して、勝ちきりました。

「△4五銀から…ほぼ1本道でしたけど、あの局面からこの寄せまで持ってくることは、簡単じゃないです…。難しいことをごく自然に達成するあたり、羽生さんらしいといえますけどね」(まゆ)

感想戦はそれを裏付けるように、先手が咎めて勝つ手は見つかりませんでした。

ですが▲2四歩を入れて迫れるようにしておくのは、やはり有力だったようです。

 

 

感想戦も終わり、事務所も閑散としてきました。寮の子はまだいいですけれど、長い対局ですと電車の時間もありますから。

ナナもそろそろ帰ろうか…そう思って席を立とうとしましたが、本を置き忘れていたことに気づきました。

ナナが出してそのままにしていた『変わりゆく現代将棋』。
…ふと、考えてしまいます。


本局は、25年前に指されていた形です。
将棋はめまぐるしい速度で進歩し、研究されています。
そんな中で、一度すたれた▲7七銀とそれに対する急戦が復活する……不思議な話ですよね。

手順のわずかな違いで展開がまるで変わったり、古い形が復活することもある……。
それは分かっていますし、アーニャちゃんに教えたりしてきましたけれど。

でも、それを指しこなすことは非常に難しいです。
序中盤、終盤までもパターン化しつつある現代将棋とは、感覚が違います。
でも、今でも通用しました。

前例を定跡に、そして体系づけて考えることを広めたのは、他でもない羽生世代です。
そして、その足跡は今も残っています。水面下に埋もれていったものも多いですが、その膨大な変化の上に、現代将棋はあるんです。

 

本のタイトルがそのまま、今を表しているように思えてなりません。

 

 ……羽生棋聖も、もう45歳になりました。体の衰えは、確実にあるでしょう。それこそ、ナナが想像できないところですけど。
ですが、膨大な経験と、それで培った感覚や大局観は未だに抜きん出ています。

これからどうなるか…それは誰にも分かりませんし、これから注視していきたいところです。

 

でも、どんな未来になっても、残された棋譜や羽生世代の考え方、その足跡は、変わらず輝きを放つ……そう、思います。

 

 

 

(了)