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とある事務所の将棋紀行

将棋の好きなアイドルが好き勝手に語るみたいです。

ラブライカの棋戦解説  王座戦の終わり、そしてまた次の・・・・・・

 

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「ミナミ、王座戦がカニェッツ…アー、終わりになってしまいました…」

そうだね。春の名人戦から半年間ずっと観てきたけれど、いろいろなことがあって…あっという間だったかな。

「ですからミナミ、王座戦の解説してほしいです」

……アーニャちゃん、それは流さすがに唐突じゃない?

「ニェット、もうプロデューサーさんに許可、もらってますね。『一局の棋譜の解説なら、すぐにできると思うので大丈夫でしょう』って」

プロデューサーさん…。

「レクツゥイアしてるときのミナミ、楽しそうですね。アーニャも勉強になって、楽しいです。ダメ…ですか?」

ズルいよ…アーニャちゃん。

 

よし、やろっか!美波、いきます!

「ハラショー!楽しみです♪」

 

 

まずはここ最近の、王座戦の歴史を振り返ってみようか。

「イストーリヤ…歴史、ですか?」

うん。でも、かなり分かりやすいかな。

 

羽生王座が、第40期(1992年)~第58期(2010年)まで19連覇。それで――

「ダーティシトー!?19ですか?タイトル、1年に一度ですよね。それだと…ミナミが生まれて、今までの長さですか!?」

そうなるね。第59期で渡辺竜王に奪取されるんだけど、翌年に挑戦して奪還。そこからまた5連覇して、今に至るね。連続25期出場、通算23期。

「ンー、よく分からないですね、次元が違います」

特に渡辺竜王から奪取して以降、王座戦の挑戦者は有望な若手棋士が続いているの。

第61期 中村太一六
第62期 豊島将之七段
第63期 佐藤天彦八段
第64期 糸谷哲郎八段(今期)

勢いのある20代の挑戦者を退け続けるって、普通は考えにくいんだけどね。

「勢いのある若手…ニュージェネ、ですね?」

……実際、そんな感じかも。

 

今期の挑戦者は糸谷哲郎八段。早見え早指しで、力戦が得意だね。NHK杯で一気に決勝まで勝ち上がって、『怪物』と呼ばれたこともあったかな。

「チゥドーヴィシシィ…怪物、ですか?」

うん。決勝の相手が羽生王座で、こちらは『地球防衛軍』なんて呼ばれてたみたい。
菜々さんや南条ちゃんが好きそうな名前だね。

王座戦はどの対局も力戦系になったんだけど、ここまで羽生王座の2勝。なかなか、糸谷さんが見せ場を作れていない感じかな。

「ヴァチモア…どうしてでしょう?」

うーん、第1局、第2局共に、判断が難しい展開になったんだよね。

 第1局 先手銀損だけれど、後手歩切れで難解

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 第2局 後手角損だけれど、先手歩切れ、と金の圧力で難解

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 この後に出た細かなミスを的確に突いて、二局とも終盤は大差になっちゃったかな。

「なにかプリチーナ…原因はあるんですか?」

 『これ』ってものはないけど…もともと羽生世代は力戦を勝ち上がって、定跡を整備してきた世代なのね。
だから未知の局面に対しての判断力は今でも健在だし、力戦よりも流行の研究勝負を挑む人の方が多いの。
糸谷八段は若手では少ない力戦志向の棋士だけど、そこは羽生王座の領域でもあるんだよね。

「パニャートナ、なるほど、です」

あと、王座戦は持ち時間各5時間、夕食休憩ありの長期戦なのも大きそう。
早指しで時間攻めも得意な糸谷八段だけど、ここまで長いと効果が薄いから。

 

前置きはこれぐらいにして、第3局の解説をしようかな。

結果はさておき、いろいろと興味深いところもあるから見てみましょう。

「ダー!」

 
(2016年10月4日)
第64期王座戦第3局 羽生王座―糸谷八段 戦

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▲7六歩   △8四歩   ▲6八銀   △3四歩   ▲7七銀   △6二銀
▲5六歩   △5四歩   ▲4八銀   △4二銀   ▲5八金右 △3二金
▲6六歩   △4一玉   ▲6七金

羽生王座が先手で、戦型は矢倉早囲い。糸谷八段は一手存損角換わりが得意だけど、これも相居飛車だし作戦としてはよくある形だね。

「最近、早囲いが流行っていますね。どうしてですか?」

ここ20年くらいは5手目▲6六歩が主流だったんだけど、『居角左美濃』と『△4五歩反発型』の2つが後手にとって有力になったから、見直されたの。

▲7七銀型なら居角左美濃にはしにくいし、早囲いなら△4五歩反発には▲6八角の一手を省略しているからやりにくい。

そして、もし△4五歩を突かなければ▲4六銀・3七桂の好形に組めるのね。

これを回避するために試行錯誤してきた後手としては…ちょっと面白くないかな。

「ニサムニェーンナ…だから動くのですね」

そう、ここから…

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△5三銀右 ▲2六歩   △5五歩 ▲同 歩   △同 角   ▲2五歩  
△5四銀   ▲2四歩   △同 歩 ▲同 飛   △2三歩   ▲2八飛  
△7四歩   ▲5七銀   △5二飛 ▲6八玉   △8二角

5筋を交換。昔からある後手急戦だね。数年前に流行った5筋交換の急戦と微妙に形が違うのだけど、そこが▲7七銀と▲6六歩の違いかな。

この形は▲6六歩が主流になると共に消えちゃったの。
△8二角の局面は、前例が26年前。

 「ニチヴォー!カエデも生まれてないです!」

 川島さんや早苗さん、菜々さ…んはさておき、糸谷八段でさえも赤ちゃんの頃だね。
それが復活するのだから、定跡って…将棋って面白いよ。

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▲7八玉   △3五歩   ▲4六銀   △3六歩 ▲2二歩   △3七歩成
▲同 銀   △2二金   ▲6五歩   △4四歩 ▲6六銀   △4三銀引
▲5五歩   △5三銀   ▲4六歩   △3二飛

△3二飛が糸谷八段らしい手で、先手の右辺の攻め駒を牽制しているのね。

一手損角換わりや右玉にあるような飛車周りで、指されてみるとなるほど…って感じだね。

「ンー、どうすればいいか分からないです」

すでに力戦で、何を目標に指せばいいのか…難しい戦いになっているね。

 

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▲5八金   △8五歩   ▲9六歩   △9四歩   ▲4七金   △5二金
▲3八飛   △9三角   ▲3六銀   △8四角   ▲3五歩   △9五歩
▲同 歩   △9六歩   ▲4五歩   △同歩

▲5八金から▲4七金は、形にとらわれない好着想だったね。これで厚みを作って、桂馬を跳ねる余地ができたから。

「先手の金銀、上にありますね。不思議な形です」

先手は抑え込んで、上から攻め潰すつもり。

だから後手は端から仕掛けたけど…△4五同歩はちょっと素直すぎたかな。

「シト?素直、ダメですか?」

普通にも見えるんだよ?でも言いなりすぎると、先手の攻めが続く形だから。△9五香から攻め合いの方針を貫くのが良かったかな。

もちろんこの先も大変なんだけど、振り返るとこのぐらいしか修正できそうな箇所がないの。

「難しすぎます…」

トップ棋士の戦いだから、分からなくても仕方ないと思うよ。
ここからの先手の手順は、誰も予想してなかったから。

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▲3七桂   △4四銀右 ▲5四歩   △同 銀   ▲9六香   △7三角  
▲6四歩   △5五歩 ▲5三歩   △同 金   ▲5六歩   △8二飛  
▲5五歩   △4三銀 ▲4五桂   △5二金   ▲5四歩

手の組み合わせも多くて複雑な局面を、先手は流れるように自然に手を繋いでいくのはすごいね。どの手も部分的には手筋だけど、この手順じゃないと成立しないの。
特に▲9六香と一歩取る手が効いたのは大きくて、糸谷八段も見落としてたみたい。

これがあるなら先に△9五香としておくべきだった…ということになるけど、その変化も難しいのね。このあたりは、経験の差も大きそう。

後手は受けきれないから△8二飛で攻め合いを見せる。
でもこの局面、先手の駒が前に前に進んでるのが分かるでしょう?

「アー、羽生さん、シーリヌイ…強いです。駒が躍動する将棋ですね。隙がありません」

…それ、誰から教わったの?

「ランコとアスカに教えてもらいました。企画で演じたみたいですね?」

……確かにあのセリフは、二人とも好きそうだね。

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△8六歩   ▲同 歩   △8七歩 ▲7七角   △6四角   ▲5三歩成
△同 金   ▲同桂成   △同 銀 ▲5五銀   △8六角   ▲同 角  
△同 飛   ▲9七角

後手は8筋から攻め合って、活路を求める。

この局面の▲9七角が、対局中は話題になったかな。『決めるには危ない手』ってね。

「シトー?厳しい手に見えます」

確かに飛車銀両取りなんだけど、後手が暴れてくるのは目に見えてるから。

いくつか手段があるから怖いところだけど…そこは、羽生王座も織り込み済みで指したみたいだね。

「『運命は勇者に微笑む』ですね」

 本当に、ギリギリのところなんだけどね。

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△8八歩成 ▲6八玉   △7九角   ▲5九玉   △8五飛   ▲6六金   △8六歩

本譜は△7九角から△8五飛が返し技で、▲5三角成は△5五飛が両取りで先手失敗。

だから▲6六金で銀取りを受けたんだけど、△8六歩で角が閉じ込められちゃうから普通はイヤなのね。

「ニチェボー、角が働いていません」

▲6六金が後手玉に響かない手だから、▲9七角からの手順がおかしいんじゃないか…という意見が多かったかな。

「でも、指したんですよね。なにか狙いがあるんですか?」

うん。次の▲7七桂が羽生さんの鋭手だね。飛車取りだから△8二飛だけど、▲6五桂と飛んで…角じゃなくて桂が攻めに働くわけ。いつの間にか、後手の飛車が攻めに働いてないでしょう?

「ニチヴォー!本当です!」

角を遊ばせても飛車先を止めて、桂馬を活用して先手が良い……そういう判断だったということかな。

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 ▲7七桂   △8二飛   ▲6五桂

「ヤー パニマーユ、分かりません。難しすぎます!」

 みんな最初は気づかなかったし、分からなくても仕方ないよ。
▲9七角の時点でこの構想を思い描ける人はほとんどいないと思う。

持ち時間が残り1時間弱あったのも大きいかな。このぐらいの時間で正確に指すのは、羽生王座の得意とするところだから。

それに後手はと金を動かすと▲7九角で角が取られて、△8七歩成は角の効きが通る。だから、▲9七角がいるだけで後手の駒は身動きが取れなくなってるってわけ。

「後手のコマ、がんじがらめですね?」

いるだけで、十分働いている…不思議だね。

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△4四銀右 ▲8三歩   △同 飛 ▲4四銀   △同 銀   ▲4三金  
△3二金   ▲4四金   △4三歩 ▲5三桂成 △4四歩   ▲4三歩  
△3一玉   ▲4一銀

はっきり良くなってからの羽生王座の指し方は明快で、戦力を切らさず正確に玉に迫っていくのね。終盤は、精算しないで拠点を残した方がいいことの方が多いから。

特に▲4一銀はお手本のような手筋で、取れば▲4二銀で詰み。

でも金を剥がされると後手は受けが難しくなるから。

「ンー…ここはもう後手苦しい、ですか?」

『終盤は損得より速度』って言うけれど、この局面はその速度がはっきりしてるの。

先手玉は右辺が広いから詰まない。逆に後手玉には、詰めろで一手一手確実に迫ればいい。

棋士の勝負としてみると、大差だね。

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△1四歩 ▲3二銀成 △同 玉   ▲4二歩成 △2二玉   ▲3一銀  
△1二玉 ▲2四歩   △同 歩   ▲3二と   △1三銀   ▲8八角

糸谷八段も粘るけど、と金も働いて成桂もいて、先手の攻めは切れないね。

最後は▲8二角。この角を活用して、羽生王座の勝利。

以下は角を取るしかないけど、△同角▲同飛の局面は先手詰まず、後手は▲3四角からの詰めろで受けなし。投了もやむなしかな。

「この角が、最後に働くんですね…」

駒の活用を大切にする羽生王座らしいけれど、ここまで徹底されると「辛い」って表現がピッタリかも。

「だからこそ、強い…ですね?」

うん、ここまで徹底するから、勝ちを逃さないのかもしれない。

 

これで3連勝で羽生王座の防衛、通算24期、5連覇。王座戦本戦連続出場も25期で、来期の防衛戦で26期になる……記録だらけなんだけど、実感が湧かない数だよね。

 「ズドラーヴァ!すごすぎます…」

春の名人戦の開幕を紹介してから半年、この期間だけで観ても羽生三冠が4連続タイトル防衛戦を戦って名人を失冠、3タイトルを防衛。

…時が進むにつれて復調して、王座戦は『無敵王座』を彷彿とさせたかな。

「どうして、そんなに強いのでしょう?」

計算力とかは若い人の方が有利だと思うけど、圧倒的な経験を活かしているのが大きいと思うな。上手く対応して、修正している感じ…?なんとなく、だけれど。

40を過ぎたら…とか、一般的な常識を当てはめちゃいけないのかもしれないね。

 

「ミナミ、王座戦は終わりましたけど、この後は何がありますか?」

 後半の半年も見どころは満載だよ。まずは竜王戦の開幕から。

三浦九段は直近の対局では渡辺竜王に勝っているし、どんな研究が観られるのか楽しみかな。

棋王戦トーナメント、王将リーグ、そして順位戦
いろんな棋戦が同時進行で進むから観たい対局は沢山あるよ。

戦型についても、目まぐるしく変わってきているしね。横歩取りも、少し気になる展開があったから…。

 「また何かあったら、教えてほしいですね。これからも、楽しみです」

うん!私も今以上に勉強して頑張らないと!

「ミナミは少し休んでください」

……はい。

 

それじゃあ、今回はここまでで。ありがとうございました。

「ハラショー!ありがとうございました、ですね」

 

ガチャ

「あれ、お二人とも何してるんですか?」

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あ、菜々さん。おはようございます。

「ドーヴラエ ウートラ!おはようございますね。ミナミに、王座戦について教わっていました。ナナは、知ってますか?」

 「王座戦ですか…?森九段を終盤で下した羽生王座は圧巻でしたねぇ…」

「シト…?」

あの、菜々さん!?

 「え?あぁ、もう美波ちゃんが教えちゃいました?ならもっと前だと……福崎王座の妖刀はすごかったですよ。振り穴の感覚が一線を画してました」

 「……シト?ナナ、それはいつのことですか?」

 「え?だから羽生王座の前の……あ!き、棋譜でミタンデスヨ、アハハ……菜々はこれで失礼します~!」

ガチャ バタン

「「………………」」

 
「ミナミ、さっきのはどういう意味ですか?」

今のは、聞かなかったことにしましょう。

「……ダー」

 

 

(了)