とある事務所の将棋紀行

将棋の好きなアイドルが好き勝手に語るみたいです。

二宮飛鳥と観るセカイ  (後編)第30期竜王戦七番勝負

 

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 新年明けましておめでとう。今年もよろしくお願いするよ。去年から引き続きこの企画を担当させてもらうわけだが、年をまたいでしまうとはね。年末はみんな忙しかったし、仕方ないところではあるけど……少しばかり気になっていたのは確かさ。まぁ、蘭子と初詣もしてきたし、ここから新年の第一歩を踏み出すこととするよ。

 着物の柄が渋いって?よく着ている服の色にしたのだが……。

 後編と銘打ってはいるが、前編は予選と決勝のトーナメントについて記述したものだから、この記事のみを読んでも問題はない。ただ読んでもらうことはやぶさかではないので、置いておくよ。

二宮飛鳥と観るセカイ (前編)第30期竜王戦トーナメント - とある事務所の将棋紀行


 さて、今回は本戦を語るとしようか。羽生棋聖にとっては7年振りの大舞台だ。待ち望んだファンも多く、また永世称号への期待も、もちろんあった。順風満帆とは、表現し難い要素もあったのだけどね。

 

第30期竜王戦 七番勝負

渡辺明竜王羽生善治棋聖

 
 七番勝負を語る前に、対局者の肩書に注目してほしい。竜王戦が始まったときには三冠、挑戦を決めたときには二冠だった羽生さんのタイトルが、『棋聖』のみになっている。七番勝負が始まる9日前、王座戦第4局で中村太一六段に敗れて王座を失っていたんだ。一冠に後退したのは13年ぶりで、そのコンディションを不安視する声聞かれたね。王位戦の菅井七段や棋聖戦の斎藤七段も含め、力のある若手が挑戦者になっていたから……勝敗がどちらに転んだっておかしくない状態は、ずっと続いていたのだけれど。人間というのは、数字によって受けるイメージからどうしても逃れられないらしい。
 そしてこの二人のタイトル戦は、意外なことに2日制において羽生さんが勝利したことはなかった。竜王戦はかの3連勝4連敗を含めて2回、また王将戦でもフルセットで挑失している。勝負は始まってみないと分からないが、だからこそ過去の蓄積を見て余計なことを考えてしまうのだろう。

 しかし何を考えようとも時間は等しく流れるもので、戦いは静かに幕を開けた。

 

第1局(10月20日、21日)

 

 本局の対局場は能楽堂で、しかも公開対局で行われたそうだ。竜王戦での公開対局は、奇しくも第2期竜王戦――羽生棋聖が初めて竜王位を奪取した期以来らしい。常に観衆が見守る中で指すというのは、ごく一部の棋戦のみで行われていることだ。ボクたちは観客がいる中でステージに立つのが常だから、そのあたりは大きな差異があるね。無論、対局室の中継は公開の有無にかかわらず行われているから、多くのファンが見守っていることに変わりはないのだけど。竜王戦はパリやハワイで対局したこともあったし、異色の開幕は恒例行事なのだろうか?

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 羽生棋聖が先手番となって、序盤は相掛かりに進んだ。江戸時代から指されている戦型だが、最近は飛車先を切る手を後回しにする傾向があるようだね。先に飛車の位置を決めてしまうことは、自分の手の内を晒すことに他ならない。互いの端歩と右銀を入れて、後手から飛車先を切った。数多の前例がある相掛かりだが、この時点で既に過去から決別した形になっている。それだけ序盤に可能性があると言えるし、その広大さに自分が矮小なもだとも思えてくるよ。ボクたちは何も理解っていないのかもしれないね、ただその気になっているだけで。

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 互いの意図によって急戦にも持久戦にもなりうる相掛かりという戦型は、特定の囲いや攻めの形を持たない。本局は先手がすかさず▲2四歩と動き、横歩を取って前者を志向した。対して後手は受けに回り、陣形を整備しつつ飛車を責める構えを取る。先手は一貫して攻勢を取る必要があるが、▲1五歩は控室も驚いた一手だった。
 桂馬も跳ねていない状態で端を突き捨てるのは、いささか早計に思えるからね。しかし突き捨てずに▲3七桂は、△8八角成―△2八角が間に合ってしまう。消去法で導いた手順らしい。成否は……とても微妙だが。

 後手は突き捨てを咎めるべく逆襲してきたが、▲1七同香からは一直線に進行した。

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(後手は1筋を伸ばして歩を成ったが、▲1七同香と取って△同香成▲2三歩成△2七歩▲3二と△2八歩成と一直線に終盤へ突入した)

 互いに変化の余地が難しい終盤になったが、応酬の中で細かなミスが後手に生じ△7四角が最終的に敗着となった。

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 先手の馬は6四の地点まで進むのだが、▲7四馬と取れる変化が先手の大きな得になっていた。代えて△7二角ならば、そう簡単には決まらなかったそうだが……プロでも即座に善悪を判断しかねる二択が生じていたとは恐ろしい。勝負の往く先に、どうしてこんな局面が生まれるのだろうね?

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(このとき、▲7四馬と取る手が生じ先手のプラスになっている)

 以下は正確に決めて、95手で先手の勝利。羽生棋聖が初戦を白星で飾った。

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第2局(10月28日、29日)

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 第2局は現代将棋を象徴するような序盤だった。何気ない角換わりの出だしから、△4四歩と角道を止めて角交換を拒む圧倒的に少数派だった出だしだ。
 これまで見過ごされてきたセカイに光が当てられたわけだが……左辺をみてほしい。角と金銀の3枚が玉の進路を阻む壁を形成している。以前は後手が矢倉だった為に先手は対抗できていたが、ここで雁木を組み合わせることで先手の反撃が間に合わなくなってきた。今はこれを嫌って、角を引く余地を消してでも▲6八銀を上がる将棋が増えている。
 当たり前だった手順まで咎められるようになるとは……ボク達は何を道標にすればいいのだろうね?いや、そもそも人が勝手に作っただけで、そんなものは無いのかもしれない。

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 先手としては攻めが間に合わないことは理解っていたから、「仕掛けない」方針を徹底して駒組みをした。▲4八銀と手損を承知で後手の仕掛けを牽制し、角の睨みで持久戦に持ち込む狙いだ。雁木は発展性に乏しいから、長引けば後手の方が手詰まりに陥りやすいという意味もあっただろう。

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(6筋から仕掛け、攻めの継続を図る△6六歩。▲同金から桂を取られない形にはなるが、歩切れが気になるところ)

 待ち構えているところに、それでも後手は果敢に仕掛けた。先手は咎めるべく受け潰しにいく。争点が少ないがゆえに、後手は駒台に歩を置くことができない。攻めが切れてしまうのではと危惧されたところで、その一手は飛んできた。

 

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(▲同桂と取るよりないが、金を吊り上げて△7五銀が間に合った)

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 7七の地点に、桂を放り込む。誰も読んでいなかった異筋の一手だが、これで攻めが続いている。△7五銀と出た局面は、後手の大駒が最大限に働いていて、受けきれる状況ではない。ここからは徐々に後手のペースへと移っていった。

 

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 敢えて駒を取らない△4九竜も、桂打ちに続く好手だったね。香車を手にする徳は大きいが、間接的に先手の角が睨む位置になっていて、後手としては損な変化が多かった。「手渡し」は羽生棋聖の得意とする所だが、この忙しい局面でそれを指せる人はそういないだろう。
 後手の攻めが切れない形になって、ジリジリと形勢は開いていった。


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 終盤は雁木を補強しつつ、鉄壁のまま押し切って勝利。疑問手といえるものが一つもない快勝だった。これで竜王戦を2連勝。こうなると過去の成績よりも、奪取への期待の方が高まったのも自然な流れだろう。

 

 

 第3局(11月4日、5日)

 

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 第3局は、3手目から注目を集めた。▲5六歩、羽生棋聖の先手中飛車居飛車がメインでありながら、しばしば振り飛車も採用する裏芸……いや、先手中飛車に関していえば採用した局は全勝だったのだから、この言葉は適当でないか。とにかく、全力で白星を掴みにいったのは間違いない。

 ……しかし、過去の星が今と断絶された存在であることは、これまでも観てきた通りだ。本局も、そうであったように。

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 相穴熊に進み、中段の勢力争いになって封じ手の局面。▲4三歩からと金を作りにいったが、歩を消費したのが痛かった。代えて▲2六飛がまさったらしいが、これはこれで茫洋としていて判断が難しい。結果から振り返れば先手はこの後、一歩でもあれば受かる後手の攻めに苦しむことになった。

 

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 △9二角と置いたのが後手の好着想。さらに△8三角とつないで、遠見の二枚角を受けるために先手は駒台の銀と竜を自陣に投入しなければならなくなった。これを緩和するべく打たれた▲8二銀が敗着で、以下△5二飛までの技有りだ。先手からすれば歩切れに苦しんだことは間違いない。

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 自陣が鉄壁で、攻めが切れないときの渡辺竜王は強い。一度ついた差が埋まらない相穴熊特有の終盤を抜けて後手が勝利した。

 

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 実は本局の少し前、銀河戦で相対した両者は同じ先手中飛車で戦っていた。このときは後手左美濃の対抗型になり、先手が勝利していたのだけど……相穴熊にしたあたり、その影響はあったのかもしれないね。棋士は各棋戦で相対するわけで、ここでは触れられなかった要素が関わっていてもおかしくはない。しかし推測だけでこれ以上を語るのはいち観測者としての驕りになるし、限界とも表現できるだろう。

 

 

第4局(11月23日、24日)

 

「タイトル戦は偶数局が大事」という言葉があるらしい。1局の価値は不偏だし、あまり流れに囚われるのもどうかと思うが……それでも本局は、この番勝負の趨勢を決めたと書いても過言ではない、そんな内容だったと言えるだろう。

 

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 先手は矢倉早囲いを目指し、後手は完成を拒んで7筋から動く。矢倉らしい全面戦争に突入し、これまでの3局とは趣の異なる手の広い中盤戦になった。薄い中央を突いた▲5五歩が、先の展開に大きな影響を与えることになる。

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 後手は玉頭を攻め、先手は抗って左辺に馬を作った。ここで放たれた△3四角が、先手玉を射抜くラインにいることを確かめてみてほしい。こうなってみると先手の歩は5六の地点にいた方が良かったことが理解ると思う。

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 とはいえ後手玉も堅さとは程遠い陣形なわけで、先手玉を正確に寄せなければ逆転を許してしまう局面。ここで飛車を引いているようでは、勝利を掴むことはできない。手番を渡せば▲3四銀から攻守が入れ替わってしまうからね。

 検討で上がったのは△5六飛。飛車を成り込む余地をみせて催促する手だ。結果的にこの手は水面下の変化になったわけだが、ほぼ一直線に進めてみよう。

 (変化図)

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(▲7七歩以下 △5六飛▲3四銀△7六歩▲同歩△5七飛成▲6八銀△7七金▲同銀△6七金▲8九玉△7七金▲7九香△8六歩▲7七香△8七歩成)

 後手が攻めているのは間違いないが、ここまで進めて先手玉は詰めろになっていない。△6九竜と入る手が厳しく正確に指せば後手が良いようだが、決まっていると断言できる順ではないね。感想戦で「ピッタリした手がない」と羽生棋聖が語っていたが、先手玉への速度が足りないと読んでいたのだろう。……ただ彼が導いた順は、万人の想像を絶するものだったけど。

 

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 △6六飛▲6七銀△8八金

 ……この3手を、中継で観ていた人達の衝撃はどれほどのものだっただろうか。銀を打てば受かってしまう△6六飛に、貴重な戦力を僻地に打った△8八金。この組み合わせで先手が寄る未来を描こうとする者は一人しかいない。というよりも後手が変調で、むしろ逆転したのではないかとすら思えたよ。

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 ▲6八玉△6五飛▲3四銀

 そして先手玉が逃げたところで、じっと△6五飛と桂を取った。先に述べたように、手番を渡せない状況なのは変わらない。先手は▲3四銀と角を取って反撃に出た。△同銀とは取れないこの局面は後手の勝ちへの道筋が完全に閉ざされたとすら思える。

 

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 △6六歩▲5六銀△3六桂▲3八飛△3四銀▲6五銀△4八銀

 △6六歩から敢えて飛車取りに銀をよびこんで、△3六桂。そして△3四銀と手を戻して飛車を取らせ、△4八銀と打つ。驚くべきことに、これで挟撃形になり先手玉は受けなしになっている。ここまで、ほぼ一直線に進めてきたはずなのに、後手の勝勢へと収束した。悪手に思えた△8八金が、信じられないほどに機能している。△6八飛までで、完全に後手玉は捕まった。

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 △6六飛から20手も先のセカイを見越していなければ、この手順は指せない。あまりにもハイレベルな羽生棋聖の指し回しは、観ている側の感覚までも破壊したようだったよ。

 

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 これで3勝1敗として、竜王位奪取に王手かけた。あと1勝とはいえ、そのとてつもない重さは竜王戦における羽生さんの歩みが示している。だから当時の高揚は、その星以上に対局の内容に向けられたものだったと思うよ。理解のできない強さが本局を含めた番勝負の中に現れていたからね。

 そして……世間の注目を集める中で、第5局が始まった。

 

 第5局(12月4日、5日)

 

 本局については……様々なところで取り上げられたし、ここの事務所でも既に記録されている。

高垣楓の徒然観戦 未踏の景色 - とある事務所の将棋紀行


 よって微に入り細を穿つことを書くつもりはないが、何が起きていたのかをなぞってみようと思う。

 

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 まず本局の数日前に指されたA級順位戦7回戦が、本譜の展開に強く干渉している。手番も同じで、角換わりに進んだこの局面。藤井聡太豊島将之 戦では▲4五歩と突いて、△6五歩以下一直線に千日手となった前例がある。先手の羽生棋聖に工夫が求められていたのだが……見事な解答を示した。

 

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 ▲4七金から、飛車先の歩の位置が低いことを活かして▲2五桂と跳ねる。従来の角換わりならあり得た一手だが、この形で組み合わせた構想が秀逸だった。現代将棋の弊害と言うべきか、低い陣形ゆえに争点が少なく先手の仕掛けが成功した時点で逆転の余地が少ない展開になっていた。先手の完勝に終わったこの将棋は、後手に▲4七金への対策という課題を与えていたんだ。

 

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 そして本局へと話は戻る。上の局面とわずかに形が異なっていることを確認してほしい。9筋の保留と、玉の位置。これが順位戦を踏まえた後手の工夫だった。1手囲いを早め先手の仕掛けから遠ざかる意味で、ここで▲4七金と上がっても展開が過去と趣を異にすることは間違いない。まだ駒組みが続くかと思われていたし、9筋や4筋、仕掛けのタイミング次第で未知のセカイが創りだされる。そう思っていたのに……

 ここで指された▲4五銀が、すべての紛れを切り裂いた。

 

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 △5五銀を許して▲2五桂と跳ねる。なぜ玉から遠ざかる▲4八金や▲4七金を指してから戦いに挑むのかといえば、桂馬を跳ねた後に残る空白に、後手の角を打ち込まれる余地を消すためだったからだ。▲4五銀という手が悪手とされた定説が存在していたのも、ごく自然なことだろう。しかし本局は定説が破綻する「例外」であった。

 

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(この局面で封じ手となり、▲4六飛と切った)

 馬を作らせても、先手の攻めは切れない。封じ手で馬と飛車を交換してみると、先手の攻め駒だけが前に進んでいる。後手は竜をつくったが、逆に負担になる中終盤になった。

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 この竜が後手の反撃の生命線ながら、竜取りを繰り替えされて先手の囲いを強固にする手伝いをしていたからね。そして先手の攻めは切れる心配がなく、最後は明快に一手以上の差がついていた。

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 ▲8四香がすべてを収束させる一手で、自玉への脅威を緩和しつつこの手自体が詰めろという攻防手だ。ここからは生放送の解説も沈黙を保って、その瞬間を待っていた。しばらく考えて△同飛と取ったが、これは形作り。飛車が動いたためにより短手数の詰みが生じている。

 

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(87手まで、先手の勝利。以下は△5一玉▲6三桂△同金▲5二金までの詰み)

 ▲4三銀打をみて、渡辺竜王の投了。この瞬間、羽生棋聖竜王奪取が決まった。それから今までの様々な世間の反応は、ここに書くまでもないだろう。世間からすれば唐突に将棋の話題が降ってきたような感があったと思うが、ファンからすれば何年も待ち望んだ快挙だった。

 こうして、歓喜と熱狂の中で第30期竜王戦は終焉を迎えた。

 

 思えば第1局から「相掛かり」、「雁木」、「先手中飛車」、「矢倉」、「角換わり」とすべて違う戦型で意欲的な作戦を志向していた。また内容も、観る側が想像だにしないような手順が幾つも飛び出し、まさに羽生将棋という言葉が当てはまる。常識ではあり得ない、例外の一手や組み合わせを導くのがいわゆる「羽生マジック」の本質だが、この竜王戦はそれが如実に表れていた。とにかく、理解が追い付かない。永世七冠という前人未到の偉業さえも、マジックの延長線上に在ると思えてくるよ。

 

 この1年を、羽生さんを軸に追いかけてみたが……どうだったかな。すべてを忠実に記録できたとは思っていないけど、この1年が棋史に大きく刻まれるものだったことが少しでも伝われば幸いだ。
 今期の羽生さんの竜王戦における成績は、挑戦までが7勝2敗、七番勝負が4勝1敗。勝率は0.786となった。数字がこれまで記してきた戦いを語ってくれるわけじゃないが、奪取という結果も頷ける成績あることがひと目で理解るだろう。

 

 このタイトル戦は永世七冠という大きな節目に在ったからこうして取り上げることができたが、それ以外の獲得した98期分のタイトル戦、そして失冠、挑失した期や本戦に絡めなかった期だって、様々な物語があることは想像に難くない。ボクが記せるものには限りがあるから、もし気になったのならばその目で確かめてみてほしい。先人が記してきた激闘の歴史が、棋譜や観戦記という形で残されているからね。

 

 未来は、誰にも解らない。今年は、どんなセカイが紡がれるのだろうね?色んな可能性はあるけれど、いい一年になるよう願っているよ。

 

 

 ……ここまで記したところで、最初の吉報が入ってきた。羽生善治氏、井山裕太氏への国民栄誉賞が正式に決定したそうだ。どう表現しても月並みな言葉しか出てこないが、誰も到達したことのない高みに、羽生さんがいるということの証左だろう。

 今はただひたすら、惜しみない称賛を送りたい。

 

(了)