白菊ほたるの将棋アラカルト 順位戦の巡り合わせ
おはようございます、白菊ほたるです。
今回は私が担当するらしいんですけど、何からお話しすればいいのか……。
えっと……まずは、こちらを紹介させてください。
事務所でやっているシリーズ企画です。
このお話では順位戦がテーマになっていて、「頭ハネ」という言葉が出てきます。
「同じ勝ち星なら、前期の順位の差で昇級、降級を決める」というルールですけど、これによってギリギリ助かった、助からなかったケースが生まれるんですね。
ということで、将棋界でおきた順位戦のエピソードをお話したいと思います。よろしくお願いします……。
菅井竜也五段 (現七段、王位)
第70期順位戦、C級2組
9勝1敗で頭ハネという場合は少ないながらありますけど、順位の差なので上位者は昇級するものです。
菅井さんはプロ2年目に大和証券杯で優勝して「たぐいまれなる成績」で五段に昇段しました。順位戦も好調で、順位6位で9勝1敗。普通なら文句なしに昇級が決まる成績です。……でも、この期だけは違ったんです。
昇級 阿部健次郎五段 順位5位 10勝0敗
昇級 中村太一五段 順位20位 10勝0敗
昇級 船江恒平四段 順位41位 10勝0敗
菅井竜也五段 順位6位 9勝1敗
C級2組は人数が多くて、総当たり戦ではありません。だから全勝者が複数人でる可能性は確かにあったんですけど……普通は考えないです。菅井五段は、同じ井上門下の船江四段に敗れて1敗したのが響きました。
同じ勝ち星ではないので、「頭ハネ」とは微妙に違いますけど……それ以上に厳しい結果だったと思います。
翌年の71期は順位3位で9勝1敗。この期は全勝者が出ず、トップで昇級しました。
C級2組、3年間の順位戦の成績は、8勝2敗、9勝1敗、9勝1敗(昇級)。何年も勝ち続けられるというのは、すごいことです。
現在の菅井王位はB級1組に在籍しています。
深浦康市九段
一番最初に「頭ハネ」で話題になる方……かもしれません。今はA級棋士ですけど、ここまで長い道のりがありました。
第53期 C級2組、順位10位、9勝1敗(頭ハネ)
第58期 B級2組、順位21位、9勝1敗(頭ハネ)
これもかなり厳しいですが、A級になってからも苦難が続きます。総当たり戦なので、降級のラインは3勝です。……普通は、ですけど。
第63期 A 級 4勝5敗 降級(頭ハネ)
第64期 10勝2敗 昇級
第65期 A 級 4勝5敗 降級(頭ハネ)
第66期 9勝3敗 昇級
第67期 A 級 3勝6敗 降級(頭ハネ)
4勝5敗は、残留が決まるはずの勝ち星です。勝ち越しまであと一歩という成績ですから。……なのに、降級。B級1組に戻って1期でA級復帰を決めたのに、また頭ハネ。これを3回、くりかえしました。
第71期、4回目のA級にしてようやく3勝6敗ながら2勝7敗が3人出たため残留を決めました。その後は残留を決め続けて、現在もA級棋士です。
前期の最終局では、久保王将との対局で深夜まで指し勝利。自身は残留を決め、挑戦者決定戦は6者プレーオフに。このドラマが生まれた背景には、何度もA級に挑んだ積み重ねがあったんです。
最後にもう一人、諦めなかった人のお話です。
窪田義行七段
順位戦の独特のルールは「頭ハネ」の他に「降級点」があります。
成績下位の人につくもので、一定数たまると下のクラスに降級するんですね。
C級2組では3点。その下はフリークラスで、そのまま10年経つとだと引退になります。
窪田七段は20代後半で降級点を2回とりました。かなり厳しい状況だったのは、間違いありません。
しかし2回目の降級点をとった次の第61期に、9勝1敗で昇級。降級点を消すどころか、勝ち上がったんです。
C級1組でも降級点を喫しますが、勝ち越して消去したあと、第66期に昇級。
B級2組でも降級点がつきましたが、2年連続の指し分け(5勝5敗)で消去しました。
ギリギリのところで踏みとどまって、降級は一度もありません。こんな成績は、他に例がないそうです。
順位戦は名人への挑戦の場でもありますけど、棋士の引退に直接かかわる棋戦でもあります。星一つが、とても大きな差を生む場所です。
棋力は、とても大事です。でも長く戦っていくときに輝くのは、どんな苦境でも歩いて行ける、折れない心なのかなって……思います。
(了)