アイドル達の戦型解説 横歩取りってどんな戦型?(後編)
それじゃあ、始めようか。よろしくお願いします。
「ダー、よろしくお願いしますね」
細かく解説すると終わらない戦型だから、流れで大きくとらえていくね。それでも大変なんだけれど…。
「ミナミ、ファイトですね」
そうだね。…美波、がんばります!
もくじ
3、△8五飛車戦法
・△8五飛戦法の広がり
・△8五飛戦法の猛威
・山崎流、新山崎流
・△5二玉型中原囲い(8五飛型)
・先手中原囲い
4、△8四飛型の復活
・△5二玉型中原囲い(8四飛型)
・6二玉の発見 美濃の可能性
5、△7二銀型
・△7二銀型と飛車ぶつけ
・斎藤流
・美濃への組み換え
・△7二銀型いろいろ
6、まとめ
まずは、菜々さんが触れてくれた前半をおさらいしておこうか。
(前半のまとめ)
1、先手、横歩を取る(後手が誘導する)
2、後手、飛車をいじめつつ急戦→居玉がたたって上手くいかない
3、△3三角戦法で囲い合い、手得を活かす→鏡指しで抑え込まれる
4、中原囲いで堅さ勝ちを目指す→3筋攻めが急所
5、△8五飛戦法へ
こんな感じかな。
「ヤー、ちゃんと覚えてます。……でも、ナナのデータ、すごいです。ぜんぶ、アーニャが生まれる前の話でしたね」
そう…なるのかな。そのあたりは、菜々さんの秘密だからね?
「わかりましたね。それで、次は横歩のリェヴァリューツィア、革命と聞きました。どんな戦型なのですか?」
うん、そこから始めていこうか。
3 △8五飛車戦法
後手は、飛車をこれまで△8四飛と引いていたでしょう?
「ダー、△3三角戦法ですね」
これを、△8五飛と引く。これが△8五飛戦法ね。
「………………」
………………。
「…………それだけ、ですか?」
そうだね。
「飛車が一つズレただけですよ?これがリヴォリャーツィヤ…革命ですか?普通の手に見えますね」
普通じゃなかった…というのが正しいかな。アーニャちゃんは『高飛車』って言葉、知ってる?
「アー、蘭子の熊本弁ですか?やみのまー、ですね」
うーん…ちょっと違うというか…蘭子ちゃんは素のときは言葉も優しいしね。
高圧的というか、あまり良い意味では使われないかな。
「これが、『高飛車』ですか?」
うん。元はこの飛車の位置からきているのね。敵陣に近くて、狙われやすいし働かせにくい……そう思われていたのが大きいみたい。
昔は「ありえない手」だったわけ。
「……でも、革命が起きたのですよね?ヴァチモア…どうしてでしょう?」
これを最初に指したのは中座真七段(現)。今期の竜王戦決勝トーナメントにも出ていらしたけれど…一番有名なのは奨励会のエピソードかな。
このあたりは長くなるから今回は省略するけれど、この△8五飛を『中座飛車』とも言うね。
最初は、他の棋士でさえ「手が滑ったのでは」と噂した…なんて逸話があるくらい衝撃的だったの。
「でも、意味があるのですよね。指した狙いは、何ですか?」
△8四飛型の中原囲いのとき、3筋攻めが急所って話は菜々さんから聞いたよね?
▲3六歩―3三角成ー3五歩―3四歩と攻めていくわけだけど、△8五飛型だとどうなるかな?
(仮に、すぐに3筋を攻めようとすると…)
「ニチヴォー!飛車が守っています」
そう、本来の目的は3筋の緩和、つまり守りの構えだったわけ。
狙われやすい△8五飛だけれど、すぐに咎める手段も難しいと分かってきて『△8五飛型中原囲い』が生まれるの。
これをきっかけに△8五飛は悪い形ではないという認識が広まって、次第に攻めの戦型になっていくのね。
「オー、ミナミの攻めが激しくなるんですね」
アーニャちゃん、言い方…。私が敏感すぎるのかな?
次にいくね。
・△8五飛戦法の猛威
これで、中原囲いに組めるようになった後手は、『堅い、攻めてる、切れない』の2つを達成したのね。その明快さから、爆発的に採用されるようになる…これが2000年代のお話かな。
特に有名なのは丸山九段で、角換わりと横歩取り△8五飛戦法を駆使して名人位にまでなったからね。他にも野月七段をはじめとして、スペシャリストが開拓していったのが最初かな。
「どう攻めるのですか?」
△8六歩▲同歩△同飛から横歩を狙って戦いを起こすのは前からある筋だけれど、バリーエーションが増えたの。
△7四歩―△7三桂を跳ねて、攻撃の体制は出来上がり。
そして、△8五飛型を活かして△7五歩って仕掛けもあるのね。
▲同歩△同飛でも手ができるし△6五桂と跳ねるだけでも攻めになっちゃうから、かなり鋭い狙いだね。
後手の駒がよく働いているのが分かるかな?
「ダー、後手の囲い、低い形ですけれどキレイです。美濃みたいですね」
低く堅い囲いだからこそ、飛車交換に強いメリットもあるね。
先手も色々な反撃が指されてきたけれど、後手の勝率が跳ね上がったきっかけは、この戦型かな。
従来の中住まいでは受け止めることが困難になってきて、対策する側が先手に移っていくの。
このあたりから、知っている展開も増えてくるかもしれない。
ここで中心になるのが山崎隆之八段(現)、今では叡王戦の初代優勝者の印象が強いかな。
山崎八段は横歩取り、相掛かりといった感覚的な将棋が得意で、対△8五飛戦法でも優秀な作戦を残しているのね。
それが、『山崎流』と『新山崎流』。
「シト、2つあるのですか?」
うん、指された時期で名前がこうなっているけれど、この2つの作戦は別だから気をつけてね。
「ンー、『横浜』と『新横浜』の位置がとても違う…みたいなものですか?」
アーニャちゃん、それは誰から聞いたの?
「ノノが言ってましたね。『神奈川出身ですけど、分かりにくくて乗りこなすのむーりぃー…』って」
東京も、かなりややこしいと思うけどね。
さて、まずは山崎流。これの要点は、「8筋に歩を打たない」ことかな。
「守らないのですか?狙いがヤー ニパニマーユ…分からりませんね」
歩を別の位置に使う狙いね。狙い筋としてはこんな局面。
(新人王戦 記念対局 山崎ー森内 戦)
筋は▲2三歩△同金▲8二歩△同飛▲8三歩△同飛▲5六角。
飛車の位置を無理やり動かして、技を決める狙いね。ただ…後手も対策できるから、そこまで主流にはならなかったかな。
例えば、△2四飛と回って▲2七歩を打たせると持久戦模様になるね。そうなると、先手からしたら少し不満かな。
そのかわりに、長い間有力とみられていたのが新山崎流ね。
これの要点は「最短の攻め」。囲いは、▲4八銀だけ。ここから攻めるの。
「居玉…ですか?」
うん、囲いに1手しかかけてないから、後手が手得しているとはいえ先に仕掛けることができるの。
ここから、▲3三角成△同桂に…▲3五歩。
「シト?そこは飛車が守っているのではないのですか?」
そのための△8五飛だったのだけどね。ここで△3五同飛と取ると、▲4六角の返し技があるの。つまり、この歩は取れない。取れないと……
(図から▲3三角成△同桂▲3五歩。3四の弱点が狙われる)
「ウ―ジャス!3筋を攻められてしまうのですね!」
ここから△4四角とか色々な反撃手段はあるけれど、中原囲いが崩れる方が早い…というのが結論。
先手陣は居玉だけれど、攻める場所が難しくて、飛車交換しても耐久力があって、見た目よりも遠くて固い…不思議な囲いなのね。
後手は△7四歩と突いて攻める余裕がないことが分かって、△8六歩から仕掛ける順が研究されるようになるわけ。右辺が壁形だから、左辺で戦いを起こす狙いね。
この形で有名なのは名人戦の羽生―三浦戦かな。
三浦九段もかなり研究してきたのだけれど、一直線に攻め合ったときに先手が勝利するの。途中の▲5三歩が有名だったりするね。
(一直線に攻め合って、▲5三歩が好手。先手玉に迫ろうとすると、▲5二歩成から先手が良くなる)
「先手玉は、逃げ道もあるのですね」
そうだね。新山崎流はこの後の名人戦にも登場しているけれど、これよりもっと前の局面で変化して、最終的には「後手もやれる」というのが一応の結論かな。
他の形に移っていくまで10年くらい指されて、かなり先手が勝った戦型じゃないかな。
後手中原囲いの弱点は3筋だったでしょう?新山崎流で徹底して攻められたのもここ。そこで生まれたのが、『△5二玉型中原囲い』なのね。
「ンー?ヘンな形ですね。玉が囲いの中心にいません」
最初のころは違和感が強い形だったけれど、3筋から遠ざかった分強く攻め合えることが分かってきたの。右の金銀を攻めても王手がかからなくて、攻め合いで1手くらい違うのね。
「パニャートナ、では後手が良いのですか?」
…でも、将棋って難しいのよ。5二玉になったことで、1筋が弱点になってしまったのよ。
「シト!?玉から遠いところですよ?」
筋だけ示すと、
▲1六歩~1五歩~1四歩△同歩▲1二歩△同香▲2一角。
こうやって、両取りが掛かるというわけ。古典的な筋だけれど、普通は成立しない筋ね。玉が金を守っていないからこんなことが起こったの。
「ンー、後手は大変ですね」
△4一玉と引き直す将棋もあったのだけど、上手くいかなくて。
ここで生まれたのが、△2三銀と上がる手ね。今の将棋でも、部分的によく観られる筋だけれど最初は▲2四歩と打てる位置だけに画期的な手だったの。
「今もよくみる形ですね。銀のクローネです」
冠の下に、玉はいないけれどね。
その▲2四歩を打たれてダメそうだけど、△3四銀とかわしてから△2五歩と飛車取りに打てるから潰れない…というわけ。
「後手のオストロィストゥア…工夫、すごいです」
1歩損だから、急かされている…ところもあるかな。
3筋攻めで「先攻」が上手くいかなくなった先手は、「堅さ」を求めることになるの。
それが、先手中原囲い。同じように堅い囲いにすれば、攻め合いにしやすいし、1歩得も活きるという発想かな。
(A級順位戦 羽生ー渡辺 戦)
「なぜ、これまで指されなかったのですか?」
元々、囲いのアイデアは昔からあったのだけど…。羽生さんが七冠を達成した対局でも、谷川王将(当時)が指しているね。
でも、根本的な問題が一つあって。
「シト?」
△3八歩、ここに歩が打てるのね。中原囲いだと、銀の死角になって取れないの。
一番いいタイミングで△3九歩成として囲いを弱体化させることができるのは大きい…という認識があったみたい。実際、羽生さんは後手をもって快勝して七冠を達成しているしね。
「ンー、難しいですね」
ただ、これが△8五飛型、中原囲い になると条件が変わってくるわけ。
まず、▲7七角と囲いにいったときに、△同角成▲同桂が飛車取りになる。
これで△8四飛と引いたら一手損でしょう?「歩損しても手得」の後手からしたら交換したくない…でも、ゆっくりしていると囲われちゃうし、動きにくいのね。
飛車を横に動かすと角交換して▲8二角と打たれる隙があるから。
さっきの対局は、後手中住まいだったよね?8筋までカバーしていたから、△3八歩と組み合わせて揺さぶりつつ指せたわけ。
「組み合わせ…ですか。難しいですね。でも、△8五飛戦法が生まれてから時間が経っていますね。なぜ、後になって見直されたのですか?」
これは定跡そのものに共通して言えることだけれど……。
研究って「流行の形」以外を一人でやっても、なかなか報われないのね。
「シト…どういうことですか?」
戦型って、両対局者の意図がかみ合って決まるものでしょう?流行の形、最新型が一番よく指されるわけで、その研究や対策が一番効率がいいのよ。
棋士は、勝つことが仕事だからね。
将棋の手に著作権はないから、新手を見つけても儲からない…というのもあるかな。
「もしアイドルみたいに印税が入ったら、誰が一番稼ぎますか?」
藤井九段でしょうね。二次創作…改良や対策は羽生三冠が一番かもしれないけれど。
とにかく、「流行の形」が苦戦になるとみんな他の手段を模索するようになる。
というのが定跡の進化の歴史かな。
先手中原囲いの場合、横歩取りでも「堅さ=勝ちやすさ」が遺憾なく発揮されたことが大くて、先手は7筋に歩があるからとても堅い囲いになるの。
左銀が▲6八銀なのも大きいかな。中央も守っていて、▲5八玉としても寄せにくいの。
他にも、▲6八玉型から攻める「斎藤新手」も優秀で、△8五飛戦法は苦戦気味…な印象かな。指されているし、難しいところも多いけどね。
4、8四飛の復活
8五飛戦法の苦戦に伴って、復活したのが△8四飛戦法ね。
「アー、戻ってきたのですね」
細かな形は違うけどね。△8五飛と△8四飛、△4一玉と△5二玉、この位置で先の展開が大きく変わってくるところが大変だね。
「前と、何が違うのですか?」
先手中原囲いに対抗するなら、△8四飛型で△5二玉型中原囲いにした方が得…という考え方とか、いろいろな要素が合わさって昔の玉と飛車の位置に戻ってきたの。
△2三銀も組み合わせると…今の将棋の陣形と、似てきたでしょう?
「でも、左側の金銀が違いますね。美濃囲いでもないです」
美濃にする…って発想が広まったのは、第3回電王戦かな。
その対局が、豊島七段―YSS戦。
もう、2年前になるのかな。
だんだん、今の形に近づいてくるよ。
電王戦Final、第3回戦 豊島―YSS戦ね。
ここまでは普通の横歩取りだったんだけど、YSSが△6二玉と指したの。
狙いは左辺に囲うこと…美濃囲いにね。
「ハラショー!やっと美濃囲いが出てきましたね」
元々、なぜ指されなかったか…というのは、本局の序盤をみれば分かるかな。
△3三角成 △同桂 ▲2一角
5二玉型なら△3一金で角が死んじゃうのだけど、6二玉型だから▲4三角成が成立するわけ。通称「豊島アタック」ね。
△3一銀 ▲3二角成 △同金 ▲2二飛成
本局は豊島七段の圧勝。かなり準備して臨んだみたいだけれど、研究を離れてからも正確に指し切って勝利したのね。
「ニチェボー、美濃にはできないのですか」
いえ…この後、棋士が研究を始めたの。
特に飯島七段の連載で示されていたのが有名だけれど、△3一銀ではなく△2五歩の飛車取りなら難しくて、むしろ後手もやれるんじゃないか…という認識になるの。
先手としては、危険な道に入りたくなないから▲2一角を見送ることが増えて、後手は美濃囲いに囲えるようになったのね。3筋の弱点からも遠くて、美濃が固いことは有名だから、後手が新たな武器を手に入れた瞬間かな。
「ニサムニェーンナ、なるほど、です。…後手、堅いですね。どう攻めるのですか?」
ひねり飛車みたいに飛車を転回して、△2四飛でぶつけたり、石田流みたいに組んだり…かな。
でも、これだけだと上手くいかなかったの。
「ウ―ジャス!なぜですか、こんなに堅いのに?」
普通の美濃と違って、8筋に歩が無いでしょう?それに、1歩損の上に普通の美濃囲いより弱いのよ。
一直線に美濃に囲いにいくと、対応されて上手くいかない…というわけ。
「将棋は難しい、ですね」
でも、「美濃に組む」って発想が生まれたことはとても大きくて、この後の戦型に大きく関わっていくの。
このあたりは、色々な形が同時進行で模索されていた印象かな。
そして、今の流行△7二銀型へと移るよ。
「やっと、ですね」
5、 △7二銀型
中原囲いは堅いし有力なのだけど、左辺が空いていて駒を打ちこまれる隙があるのね。
「ダー、駒が右にかたよっていますね。でも、矢倉、美濃、銀冠…その方が普通ですね?」
横歩取りは、例外ばかり…と言えるかもね。
この空間を消す囲いが△7二銀型なの。
「よく見る形ですけど…金銀が二枚分かれていて、不思議な形です。堅くはないですね?」
うん。この形の特徴は、大駒を打ちこむスペースがないこと。
仮に飛車や角を手にしても、8二の地点くらいしか打てないし、打っても後手陣はすぐに崩れない。
これを活かして、最初は△2四飛とぶつける指し方が流行したのね。
「先に動いて良くしにいく」後手横歩取りらしい構想なんだけれど、激しい戦いになって…先手陣を破れるかはまた別の問題かな。
(▲2五歩は不満とみて▲同飛△同銀▲8四飛△7四歩▲8二飛成…など)
例えば、有力な先手の対策として、飛車交換の後に▲8六歩と突いてゆっくり8筋を伸ばしていく指し方があるのね。
「シト?飛車や角で攻められないのですか?」
中住まいって、キズがないと突破しにくい囲いなの。飛車や角を打つところが無いでしょう?
これが、3筋を突いていたりすると5五角とかの攻め筋も生まれるんだけどね。
「その形は、少し前に観た気がしますね?」
うん、この後に指された形が異常なほど破壊力を発揮して、大流行して今に至ると。
それが……『斎藤流』。
今の横歩取りの主役…と言っていいかもしれない。
単純だけれど、破壊力がある戦法だよ。
「後手、手得したのに端歩を突いてますね。なぜですか?」
後手の囲いって、この形がほぼ最善なのね。ここから金銀を前に出すと、大駒の打ち込みや隙ができちゃうから。この形を維持して、一番いいタイミングで動いてリードしたい…というのが後手の方針なわけ。
対して先手は、陣形を整備したら▲3六歩から攻めに回りたい。
この、両者の意図がかみ合った結果生まれたのが「端歩で待つ」斎藤流なの。端歩って、マイナスにはならないのよ。ほとんどのケースでプラスになりこそすれ敗着になることって少ないから。
これより前の形でも、似たような端歩突きはさされていたのだけど…この歩の位置が勝敗を分けるくらい重要になるから、少し異質な戦型かもしれない。
「待って…いつ動くのですか?」
先手が▲3六歩と突いた瞬間。ここはこれまでと変わらないね。先手の攻め筋は▲3六歩からの3筋攻めだから変わる手も難しいわけ。
「アー、ミナミがアーニャの攻めを誘っていますね」
…このあたりは、互いにいろいろな狙いが交錯しているね。
(図から、△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩)
横歩を守って▲3五歩と突くけど、△8五飛と引かないで…
△8八飛成。
「ウ―ジャス!飛車を切ってしまいました!」
▲同銀に、△5五角と打つ。これが△8八角成と△1九角成の両狙いで、受けはないのね。
ここで攻め合うことになるけれど、△7二銀型とこの筋の相性が非常に良いの。
「薄いのに、サブミッシィマシ…相性がいいのですか?」
先手の早い攻めは▲8二歩や▲8三歩なんだけれど、「玉が詰むまでの手数」が計算しやすいの。金銀が防波堤になって、王手がかからないから読みやすいというわけ。
「これで、後手良し?」
うーん、このあたりは今も研究されていてはっきりとした結論は出ていない領域かな。
端歩の位置で勝敗が変わったりもするから、とても難しい…としか言いようがないね。
このあたりは、蘭子ちゃん幸子ちゃんのところで細かく解説しているから、見てみるといいと思うよ。
渋谷凛の『横歩取り斎藤流』考察 - 神崎蘭子さんの将棋グリモワール
斎藤流って、再現性が高い…つまり、同じ局面が表れやすい形なの。だから、研究の勝負になりやすいのが特徴かな。若手がこぞって研究している印象ね。
・美濃への組み換え
先手は斎藤流を避けるなら▲7七角として持久戦模様にすることができるけれど、後手はそれを見て△6二玉―△7一玉と指すことができるのね。
(名人戦第4局 佐藤ー羽生 戦)
「ニチヴォー セビェー!!ここで美濃囲いですね」
相手の形を見て、自分の形を決める。「あと出しジャンケン」をしているわけ。
先手も▲5九銀右から中原囲いのように固めたり、後手の弱点の8筋を攻めたり…。
力戦気味になるかな。
先手が▲6八玉型とか中住まいじゃない場合、玉は右に行って銀冠に組む将棋もあるね。これが棋王戦第4局で現れた形で、作戦的に成功したかは難しいけれど。
今の横歩取りについてまとめてみると…あ、ホワイトボードに書くね。
△9五歩型
持久戦模様になると美濃囲いの端が活きるけれど、斎藤流になったときに先手が勝ちそう。
△1五歩型
斎藤流で得になる変化もあるけど、成否は微妙。(A級渡辺―広瀬 戦も△1五歩型斎藤流)持久戦にしても一局。
▲1六歩△1四歩型 △1四歩△9四歩型
やはり明快な結論が出ていない。場合によっては△1五角の筋もある。
▲2四歩型
銀冠を直接咎める手。先手やれる変化も多く、これで先手良しなら後手は△2三銀型そのものの成立に関わる。
こんな感じかな。これまでの指し方の集大成…みたいな戦型かもしれない。
佐藤名人を筆頭に後手横歩が猛威を振るっているけれど、これから先手の対策が定まってきて勝率もある程度落ち着いてくるんじゃないかな。
これまでの経験則…でしかないけれどね。
「先手にもナジェスタ…希望があるのですね」
まとめ
ここまで色々な形をみてきたけれど、これ以外にもあるし横歩取りを一言で説明するのは難しいかな。
でも、基本的な方針としては
・後手が1歩損を代償に、先に動いて良くしていく戦型
・先手は抑え込めれば満足、後手の攻めには攻め合い勝ちを目指す
かな。一番多い△3三角戦法のみなら、
・後手の仕掛けは△8六歩などで横歩を狙う
・先手は3筋の歩を突くのが基本の狙い筋
というのが共通しているかな。
たぶんこれからも色々と形が変わっていくけれど、「定跡の手順」だけじゃなくその意味や方針を理解することである程度は対応できると思うよ。
私が説明できるのはこれくらいだけれど…どうだったかな?
「たくさん…たくさん、形がありました。定跡はズヴェズダ…星みたいですね。将棋盤はコスモス…宇宙です」
星も、将棋の局面も、有限なのだけれど…人間が理解するには、数が大きすぎるね。
「でも…長い時間をかけて、たくさんの人が手を見つけて、深めていったのですね。ミナミが、ナナが教えてくれました」
横歩取りは大きく形が変わることが多いから目立つけれど、他の戦型もみんなそうだよ。
それは…これからも変わらないと思う。
というわけで長くなっちゃったけれど、今回はここまででおしまいです。
ありがとうございました!
「ドーブラエウートラ!ミナミ、いつもありがとう、ですね。プラダガールナ…感謝です」
私は…既にあるものを解説しているだけだから。
「星は、見ただけではどれか分かりませんね。教えてくれる人、大切です」
ありがと、アーニャちゃん。
…そういえば、星で思い出したのだけど、七夕にアーニャちゃんは何を願ったの?
私は『これからもみんなで、楽しく過ごせますように』って書いたけれど。
「アー……恥ずかしいですけど…ミナミのことを書きましたね」
私のこと?
「……『ミナミのことがちゃんと伝わりますように』です」
えっ!?どういうこと?お仕事して、みんなにちゃんと受け入れてもらってるけれど……
「ミナミ、少しセクスィなお仕事、多いです。アーニャ、ミナミはカワイイ、キレイだと思います。でも、最近はセクスィ…ンー、カゲキなお仕事多いです」
えぇ!?そんなはずは……
「なんでミナミがスクール水着を着ますか?ミナミはステュデェント…大学生です!みんなのお姉さんです!どうしてですか、おかしいです!」
あ……いや、アーニャちゃん?私もアイドルだから、これくらいは……ね?
「その後も、ミナミ前の衣装でセクスィな…あやしいセリフ言ってました!なぜですか!なんでそんなお仕事ばかりですか!ミナミはクールです!やさしくてカッコイイです!みんな勘違いしてます!」
ちょ…ちょっと、その話は後で…ね?それでは、お疲れ様でした~!
「ンンンンミナミィ!」
※ このあと、2人で話し合ったみたいです(P)
(了)
参考対局
第31期新人王戦記念対局 山崎―森内 戦
第68期名人戦第二局 羽生―三浦 戦
第72期順位戦4回戦 羽生―渡辺 戦
第45期王将戦第四局 谷川―羽生 戦
電王戦 Final 第3回戦 豊島―YSS 戦
第27期竜王戦挑決ト 糸谷―羽生 戦
第75期順位戦第2回戦 渡辺―広瀬 戦
第74期名人戦第4局 佐藤天―羽生 戦