アイドル達の座談会 WCS26ponanzaー技巧 戦
ありす
それでは、これから座談会を行いたいと思います。
美波
よろしくね、ありすちゃん。
ありす
……橘です。
楓
橘…タチバナ……。つぼみのときに夕美ちゃんから聞いたけれど、クール・タチバナだったかしら?
クール・タチバナ
そ、それは…!
……ありすでいいです。
菜々
でも、よく事務所に5人も集まりましたねぇ。ナナはコンピューターを勉強するために来てみましたけれど、他の皆さんはどうして来ていたんですか?黄金週間ですよ?
美波
私とありすちゃんがイベントライブのお仕事で、楓さんもお仕事ですよね。
まゆちゃんは…
まゆ
まゆは、プロデューサーさんがいる所ならどこにでも行きます♪
菜々
あ、アハハ……。
ところでありすちゃん、プロデューサーさんと急遽企画されたみたいですけれど、何を話すのですか?
ありす
世界コンピューター選手権、ponanza―技巧の対局について、ですね。
菜々
いやいやいや!対局終えたばかりなのでまさかとは思いましたけど、あの内容を解説するのは我々には無理ですよ!棋士でさえ首をひねる高難度な対局ですよ!?
ありす
……いえ、「解説」というのは語弊がありますね。
ですが菜々さんの言うように内容が高度すぎて、ついていけなかった人が大勢いたと思うんです。
ですから、あの対局を具体的に言語化できないか、試してみたいと思ったんです。
美波
言葉で表現してみよう、ということかな?
ありす
はい。それが正しい見解かは分かりませんけれど、ソフトの手の狙いや方針といったものを少しでも伝えられたら…と思ったんです。
難しいことですけど。
楓
…まずは、やってみましょうか。
ありす
はい!よろしくお願いします。
▲5八玉の意味
▲7六歩 △3四歩 ▲5八玉
ありす
まず、3手目から考えなければですね。▲5八玉。Ponanza流として有名な手ですけれど、「なぜこれを指すのか」については、説明が難しいところです。どんな意味か説明できないでしょうか。
菜々
……ナナにはさっぱりです。昔の将棋だったら破門クラスの手ですよ。
本譜だって▲6二玉で手損していますし、意味があるとは思えません。
しいて言うなら、既存の定跡外しじゃないんですか?
まゆ
でも、具体的に咎める方法も難しいですよ。横歩取りや相掛かりなら中住まいでいいですし、居玉を避けているので後手からの急戦を消している意味も出てきますよ。
咎めるなら、振り飛車ですけど…▲6八玉で収めることができるから、そこまで損にはなりませんね。
ありす
ponanzaはあまり振り飛車を評価していないので、それは大きいと思います。また、将棋ソフト全体でみても居飛車が多いので、技巧も振って対抗しませんでしたね。
まゆ
1手損くらいでは、勝負は決まりませんよね。先手番ですしなおさら。
ありす
美波さんは、何か見解はないですか?
美波
私?うーん…個人的にはだけど、藤井九段の描く構想と近いと思ったかな。
ありす
……どういうことですか?
美波
角交換四間飛車や藤井システムなんかが顕著なんだけれど、相手の手に応じて攻め筋を組み立てるのね。
相手に形を決めさせて、それを咎めるって感じかな。
「指さなくていい手はできるだけ手を後回しにする」方針で、現代将棋を象徴している…とも言えるかな。
(▲2五歩なら△2四歩から逆棒銀、▲3六歩なら△4四銀ー△3五歩、待機するなら△4四銀ー△3三桂
や△3五歩ー△2四歩がある)
ありす
この▲5八玉も、そうだというのですか?
美波
それに近い、と思うの。
▲5八玉自体は、居玉を避けつつ歩を支えている「プラスの手」なのね。
で、後手は何か指さないといけないからそれに応じて指していく方針だと思う。
元々ponanzaは低く構えて急戦を得意にしているソフトだから、▲5八玉が悪手になることはほぼ無いんじゃないかな。
上手くまとめられないけど…。
楓
要するに、「後だしジャンケン」…かしら?
美波
そうですね。端的に言えばそうなると思います。
序盤から、気の抜けない展開になりますね。
菜々
なるほど、変則的な序盤でいえば佐藤康光九段が有名ですけれど、「一目愚形でも悪くならない」というのは共通してますね。
……将棋は難しいですねぇ。
陣形の差
△6二銀 ▲4八銀 △5四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩
△3三角 ▲3六歩 △5三銀 ▲3七銀 △3二金 ▲6八玉
ありす
この一手だけで延々と議論できそうですけれど、時間もあるので先に進めますね。
後手の技巧は△6二銀と指して、居飛車を明示しつつ手広く待ちました。
その後、ponanzaが飛車先を突き越してから▲6八玉と手を戻すのですけれど、難しいやり取りです。
菜々
振り飛車じゃないのに玉を寄りましたよね。これじゃあ、単なる手損じゃないんですか?
美波
…いえ、おそらく後手が角道を止めたから寄ったんだと思います。
後手からすぐに動く順がなくなったので、咎めにいく準備…と言えばいいでしょうか。
まゆ
先手の手が攻めによく効きつつ玉も安全になっているのに対して、後手は居玉で金銀が追い付いていない印象を受けます。
居角の急戦を先手番で指せるのは大きいですね。
楓
これも、▲5八玉の効果…ですか。
美波
はい。普通の矢倉系の将棋だと△8四歩が入っているのでここまでキレイな居角急戦は指せませんけれど、本譜は後手の飛車先不突きが裏目に出ている展開ですね。
主導権でいうなら、既にponanzaにあります。
楓
居角で後手を威嚇しているのね…ふふっ。
美波
……ダジャレはさておき、後手を威嚇どころか、破壊するつもりですね。
強気の応酬
△5二金 ▲2六銀 △4三金右 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀
△3四歩 ▲2四歩 △2二銀 ▲2三歩成 △同 銀 ▲2四歩 △1四銀
ありす
この後ponanzaは棒銀から攻めに出て、技巧は金銀で受ける展開ですね。ここ数手は自然というか、必然の応酬が続きます。
菜々
ですけど、▲2四歩に△1四銀は強気な手ですねぇ。▲1六歩から、部分的には受けが無い手ですどね。
技巧の手はここまで人間的だなぁなんて思っていましたけれど、これは人には指せないです。
ありす
解説で示された展開はこちらですね。
▲2四歩以下
△1二銀 ▲2六銀 △2三歩 ▲同歩成 △同銀 ▲2五歩
菜々
▲2五歩で銀冠の好形を拒否する形は羽生さんが昔指していますけれど、こちらが自然に見えますね。
まゆ
…善悪は難しいですけれど、後手が嫌な形のまま戦うことになりますね。駒の損得もないですし、先手も十分に指せそうです。
菜々
なるほど…手得よりも駒の効率なんですか…。時代は変わりますねぇ。
斬り合い
▲1六歩 △4五歩 ▲3三角成 △同 桂 ▲7一角 △5二飛
▲1五歩 △6四角 ▲1四歩 △2八角成 ▲2三歩成
△4二金寄 ▲4四銀打 △5五馬 ▲5三角成
ありす
ということで、後手の技巧が△4五歩から斬り合いに持ち込みました。
互いに妥協をしていない応酬ですね。
まゆ
先手は、ギリギリの手順で攻めを繋いでいますね。飛車を見捨てて▲2三歩成ですか。
△同金は、本譜の▲4四銀打から攻めが続くということですか。
△4二金にも同様に進めて、△5五馬…また難しい手ですね。
楓
働いてない馬を受けに使いつつ、本当の狙いは△2八飛の王手でしょうね。
▲5五同歩△2八飛だと適当な合い駒がないから…。
まゆ
だから▲5三角成で銀を補充したんですね。水面下の読みがすごいです…。
急転直下
△同金上 ▲5五銀 △2八飛 ▲3八銀 △3五歩 ▲2七歩
△5五歩 ▲3九金
ありす
そろそろ、問題の局面ですね。後手は狙いの△2八飛を指すのですけれど、▲3八銀と受けて、以下▲2七歩―▲3九金で飛車が死んでしまいました。
そして△2五桂▲2八金。タダで取られてしまったわけです。
……どう解釈すればいいのでしょうか?
菜々
よく言われる「水平線効果」じゃないですか?△2八角とかも有名ですし。
ありす
読み筋を実際に見ているわけでないので可能性は否定できませんが、△2八飛から5手で飛車が詰んでしまっているので、少し変化としては短いんですね。本当に、これを読めていなかったのか…という疑問があります。
まゆ
私たちがみても、難しい局面ですよね。ずっと長考していたい局面です。
美波
後手は飛車を取られるまでの間に、先手の銀二枚を取って△2五桂と逃げているから、これが読み筋だった可能性もあるのかな。
読んだ上で、飛車を取らせるより自玉の安全度を上げようとした…ってことなのかな?
楓
すこし、後手が終盤の速度を読み間違えてる…と言えばいいのかしら。
ありす
もしかしたら、単純に誤判断ということもあり得ますか。
技巧は序盤、中盤、終盤に応じて評価関数を変化させるらしいのですが、激しすぎる進行に追いついていないとなれば、これを説明できるかもしれません。
菜々
激しすぎて正着が分からないというのは、豊島―YSS戦を思い出しますねぇ。
でも、後手玉に迫るのでなく▲3八銀―▲2七歩―▲3九金から飛車を詰まして良しという判断は人間的というか…。Ponanzaの強さを示した手順ですね。
収束
△2五桂 ▲2八金 △6二玉 ▲3一飛 △5六歩 ▲7一角(図)
△7二玉 ▲5三角成 △8六角 ▲同 歩 △5七歩成 ▲7八玉
△5一歩 ▲5二馬 △6七と ▲同 玉 △6六銀 ▲同 玉
△6五銀 ▲7七玉 △6六銀 ▲同 玉 △5二歩 ▲6一銀
△6二玉 ▲7二飛 △5三玉 ▲5二飛 △4四玉 ▲5五銀
まで、先手ponanzaの勝ち
ありす
更にここから▲3一飛―▲7一角―▲5三角成で必至が掛かり、勝負が決しました。
以降は王手を続けますけれど、先手は詰みません。
菜々
▲7一角を打たせず粘るなら手段はありそうですけどねぇ。8二に効かせつつ△7一銀とか…。でも、玉の安全度が違い過ぎていてどうしようもないですか。
ponanzaの快勝ですねぇ。
まゆ
終盤は、ponanzaが読み勝っていたように見えますね。
ありす
今回のルールは持ち時間10分に一手10秒加算するフィッシャールールなので、どこに時間を使うか、深く読むかが重要なテーマでした。
本局はというと、
(▲5五銀まで 残り時間▲8分1秒△5分5秒) 単位は秒
△2八飛(28)▲3八銀(17)
△3五歩(23)▲2七歩(17)
△5五歩(15)▲3九金(4)
△2五桂(36)▲2八金(14)
△6二玉(4) ▲3一飛(16)
△5六歩(8) ▲7一角(18)
ponanzaの方がコンスタントに時間を使っているようですね。
まゆ
飛車を取られてから、技巧の考慮時間が短いような気がしますね。
ありす
このルールが採用されたのは今大会が初めてなので、これに対応した設定を調整するのは大変なことだったと思います。
どの局面で深く読むかということは非常に重要ですけれど、明快な答えが出せない問題でもありますね。
楓
機械には、時間を使う実感ってあるのかしら…ふふっ。
一同
………………。
座談会終了
ありす
ここまで、ソフトの対局を言葉にできないかと試してみましたけれど、どうだったでしょうか。
まゆ
ソフトの特徴がよく表れた対局だったと思います。良くも悪くも。
菜々
ponanazaの、玉の安全度に差をつける方法がすごいですねぇ。
勝ちパターンとして「固い・攻めてる・切れない」と言われますけれど、固くはないですが相手玉より安全な局面を常に維持していました。
人間なら、穴熊に組んでこういうパターンに持ち込むのですけれど…。
美波
他の対局を観ていても、自玉が安全な状態で攻める技術の高さに驚いたかな。
穴熊じゃなくてもゼット(絶対詰まない形)は存在するから、そういう局面から早く動く感覚は新鮮だね。
定跡でいうなら「矢倉91手組」や「富岡流」、「新山崎流」みたいな怖さがあるかな。
楓
みんなのように上手くコメントできないけれど、何か違うものを見ている気がしたわね。
でも同じ将棋なのだから、将棋はそれだけ難しくて底が見えないものだ…と言ったら変かしら。
まゆ
いえ、それでいいと思います。分からないから、みんなが惹かれるんですよ。棋士も、開発者も。
ありす
今回は突然のお願いに応じて頂いて、ありがとうございました。
それでは、これで終わりといたします。
お疲れさまでした。
一同
お疲れ様でした!
楓
うーん!お仕事も終わりましたし、みんなで飲みに行きません?
美波
楓さん!まだ全員未成年で…………。
菜々
な、ナナを見るのには何か意味が…?
(了)
みなさん、3日間お疲れ様でした。(ありす)